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- センシング事業の新規事業検討プロジェクト
社会をもっと安心・安全に。
その想いが新規事業を生みだす。
人は、目に見えないものにこそ恐怖を感じる。異物混入のニュースは後を立たず、安心・安全だと言い切れるものはまだまだ少ない。目に見えない情報を読み取るセンシング分野において、コニカミノルタは新たに波長を用いたセンシング技術である「ハイパースペクトルイメージング」事業に参入。リサイクル、食品、製薬など多岐にわたる領域で、見えないものを可視化する動きを加速させている。
(Beyond Our Vision)
センシング事業本部
見る技術を通じて働く
プロフェッショナル、
消費者に安心・安全を提供したい。
キーワードは、安心・安全・衛生。
先端的なセンシング技術を持つ
コニカミノルタの答えとは。
センサーを通じて色を数値化するセンシング技術を用いて、グローバルに大きく事業を展開してきたコニカミノルタ。現代社会において必要不可欠なセンシング技術の、次なる成長戦略を描くプロジェクトチームが2019年に発足された。チームに与えられたキーワードは、“安心・安全・衛生”。これらの言葉をもとに、社会に貢献できる新しい事業を考えること。それがプロジェクトに与えられた目標だった。文字通り、何もないゼロからのスタート。柴田と長井も、センシング事業として新たな価値提供を目指すプロジェクトメンバーに名を連ねていた。チーム結成からわずか1年後、コニカミノルタは“波長を用いて、対象の物質特有の光を読み取り、目に見えない現象の可視化”を行う次世代センシングのキーテクノロジー“ハイパースペクトルイメージング”の有力企業であるフィンランドのSpecim(スペキム)社買収を発表した。チーム発足から買収まで1年で実現した本プロジェクト。この背景には、柴田や長井の奔走があった。
ゼロからのスタート。
コニカミノルタとして、
何をするべきかを考えた。
ヒントも何もない、
焦りだけが募った発足当初。
センシング分野の新規事業プロジェクト発足後すぐ、柴田と長井は大きな壁にぶつかった。そもそも、どの領域に何をもって踏み出すのかさえ不明瞭な状態。まさに雲を掴むような話だった。「新規事業の立ち上げの推進役として抜擢されましたが、安心・安全・衛生という広すぎるドメイン。その中から、我々が担うべき事業領域を、技術面、さらにはビジネス面の両方から見た上で絞り込むところから始めなければなりませんでした」当時の苦悩を、柴田は語る。同じく長井も、エンジニアのバックグラウンドを持つ戦略検討メンバーとしてプロジェクト発足時から参画していた。「ゼロから新しいことを考えても良い、というチャンスをもらえた嬉しさの一方で、何も決まらずアウトプットできなかったらどうしようという不安や焦りはありました」と長井は振り返る。
それでも進むしかない。
まずは情報収集から。
まずは、安心・安全・衛生が求められる市場の調査に取り組んだ。既存事業の範囲であれば市場動向に詳しい人財が社内に多くいるが、今回のプロジェクトは我々にとって、新規分野を探索し、情報を収集するのは苦難の連続であった。「やっと仕入れた情報でも、誰も何もわからないので正誤の判断がつかなかったんです。」と、柴田は苦笑いを見せた。市場調査と同時に、調査し見えてきた課題に応えられ技術があるのか調査を行う。センシング事業本部の持つ技術が活かせるか、親和性があるかなど複数の観点から絞り込みを行った。精査を重ねていく中で、少しずつコニカミノルタとしての在るべき形が見えてきたという。「コニカミノルタのセンシング事業分野では研究するだけではなく、より実際のものづくりの現場=産業用途に近い場所での価値提供を得意としてきました。こうした既存事業における我々の姿を振り返るなかで、産業用途に役立つ計測機器を深掘ることが目指すべき姿の一つではないかと考えました」と長井。その上で、得意分野であるものづくりや、光学設計の技術を活かして他社と差別化していくことに、チームの意向は固まった。
“良い技術”がビジネスに
直結するとは限らない。
辿り着いた先は、
ハイパースペクトルイメージング。
論文や文献をむさぼるように読み、調査をしていく段階で、チームは、ハイパースペクトルイメージングという安心・安全・衛生領域での適用拡大が見込まれる技術に辿り着いた。コニカミノルタがこれまで得意としてきた光計測器は、もののある「一点の光」の情報(分光スペクトル)のみを取得するものであったが、このハイパースペクトルイメージングの技術を活用すれば、画像の画素毎に分光スペクトルを取得できるようになる。「市場の流れとして、データプロセッシング(データ加工)技術の向上、センサーの低価格化などを踏まえると、様々な分野に適応できるポテンシャルがある技術ですし、これから伸びていく領域だと判断しました。」そう、柴田は話す。一気にジャンプして行き着いた結論ではなく、確実に一歩ずつステップを重ねていった末に出た答え。なんとしても、この技術でいきたい。柴田と長井の思いは強くなった。
それを、どうビジネスとして
成立させるのか?
次に訪れた難関が、コニカミノルタならではの提供価値の具体化だった。プロジェクトチームといっても、事業企画部の一部署だ。実現に向けては、開発部や既存の他ビジネスとの連携も要求される。他部署で行っていることや、技術を把握し、協力を仰ぎながら、協業できることがないかと模索を進めていった。「技術として優れていることは、みなさんすぐにわかってくれました。しかし、ビジネスとしてはどうか?という声も多く上がり、その答えをなかなか示すことができず、時間がかかってしまいました」柴田は言う。「ハイパースペクトルイメージングだけでなく、今ある技術とどうシナジーを生み出せるのか、を徹底的に洗い出すのに苦労しました」と長井。一つの技術の力のみに頼らず、掛け算でビジネスをできることこそが、様々な技術を持っているコニカミノルタの強み。チームでビジネスモデルを導き出し、価値提供の実現のための最善パートナーとしてフィンランドのSpecim(スぺキム)社を選定、2020年11月末、買収に至った。
挑戦は、まだまだ始まったばかり。
「膨大なデータが出てくる中で、それをどう顧客価値につなげられるかに注力しています」柴田の目は、もう先を見据えていた。この技術を用いて、何を撮影し、得たデータをどう分析し、どう活用するか。そこまでを顧客に提供できてこそ、コニカミノルタの本当の意味での価値となる。同じ透明でも様々な種類があるプラスチックを化学分子レベルで識別することで、リサイクルの現場で役に立つ。また、食品の中に異物が混入していた際に、人の目では分からなかったものを正確に見つけることができるようになる。「まだ論文レベルですが、将来的に、これまで目視検査では見つけることが困難であった腫瘍をハイパースペクトル画像から素早く正確に特定できるようになるかもしれません」長井もにこやかだ。ハイパースペクトルイメージングは、様々なビジネスを支える可能性を秘めた技術だ。今はまだスタートラインに立ったに過ぎない。もしかしたら二人にとっては、まだスタートにも届いていないのかもしれない。柴田と長井が築いた礎の上に、想像もできない社会がやってくる日は、そう遠くないだろう。