取締役会議長 松﨑 正年
Profile コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社取締役、コニカミノルタテクノロジーセンター株式会社代表取締役社長を歴任後、当社取締役兼代表執行役社長を経て、2014年4月から現職。
社外取締役 友野 宏
Profile 住友金属工業株式会社代表取締役社長、新日鐵住金株式会社代表取締役社長兼COO、代表取締役副会長などを歴任後、2015年6月から当社社外取締役に就任。2016年6月から指名委員会委員長。
取締役会の人員構成と取締役候補者の選定プロセスについて
コニカミノルタの取締役候補者の選定プロセス、および基準について教えてください。
- 松﨑
- 毎年、定時株主総会を経て取締役が選任された時点から、次年度の取締役候補者の選定プロセスが始まります。まず最初に、取締役会のあり方をレビューし、総人数および社外取締役・非執行社内取締役・執行役兼務社内取締役それぞれの人数案を確認します。併せて、次の株主総会をもって退任する予定の社外取締役と社内取締役を確認し、それぞれ新任の候補者人数を想定します。
そのうえで、どのようなスペックの方を次年度の取締役候補者とすべきかについて、指名委員長の采配のもとで検討・決定していきます。
- 友野
- 一般的に日本企業では、取締役候補者の選定においては社長の影響力が非常に大きく、実態は、「次の取締役はこういう人」という社長の意向を、指名委員会などが承認するようなケースが多いようです。これに対して、当社の場合は、次年度の取締役会の人員構成のあり方や、どういったスペックの方が必要なのかを検討・決定するところから、私たち指名委員会に委ねられています。
社外取締役候補者選定の場合、決定した人員構成や候補者スペックに基づき、指名委員と他の社外取締役および社長から候補者を推薦してもらいロングリストを作成します。そのロングリストをもとに指名委員会で議論して優先順位を決め、その順位に基づき取締役会議長の松﨑さんと私の2人で訪問し社外取締役就任を打診します。
- 松﨑
- 私自身、過去に5年間社長を務め、その間毎年候補者を推薦してきましたが、私の推薦が通ったのは一度だけでした。要するに、誰が推薦したかは一切関係なく、スペックに最もふさわしい人を選ぶのが当社の社外取締役候補者の選定プロセスなのです。
本年度は2名の社外取締役が新たに就任しましたが、選定にあたって重視された要素は何ですか?
- 友野
- 今回、社外取締役の候補者選定にあたって重視したのは、経営戦略との適合性です。当社では、前中期経営計画「TRANSFORM 2016」において、ソリューションを中心としたビジネスモデルへと業容転換を図ってきました。そして続く中期経営計画「SHINKA 2019」では、基盤事業の収益力を強化しつつ、バイオヘルスケアやIoT・デジタルといった新しい領域での事業創出に挑戦しています。新任の社外取締役候補者の選定では、そうした戦略に関する議論において、適切な示唆や助言ができる人、というのが最大のポイントでした。
- 松﨑
- 社外取締役の選任においては、各候補者のバックグラウンドや得意分野などのバランスを意識し、現状で足りない分野やこれから必要となる領域に豊富な経験と知見を持つ方々を優先してきました。例えば、グローバルなモノづくりの経験があり、実際に現場に出て意見していただける方として友野さん、投資家の視点からも意見をいただける方として能見さん、グローバル企業でコーポレートガバナンスを経験された方として八丁地さん、というように、それぞれの得意分野を持つ方々に社外取締役をお願いしています。こうした人員構成を前提に、今回は、友野さんがおっしゃるように、バイオヘルスケア分野に土地勘のある方として藤原さん、IoT・デジタル領域の本質に踏み込める方として程さんを加えました。
- 友野
- 今年度、新たに社外取締役に就任されたお二人は、それだけでなく、M&Aの経験も豊富です。バックグラウンドや得意分野のバランスにおいても、戦略との適合性においても非常に強力なメンバー構成になったと思います。それから、現在、私が当社の社外取締役に就任して3年が経ちますが、社外取締役の任期というのは、企業の長い時間軸から見ればほんの短い期間に過ぎません。その私と、より長く継続的に当社に携わられている松﨑議長の二人が中心となって、社外取締役候補者選定を進めるというのは、非常に良い仕組みといえるのではないでしょうか。
一方、社内取締役も2名が新たに就任しましたが、その選定においてはどのような要素を重視されましたか?
- 友野
- 本年度、指名委員会が重視したのは、「継続性」と「世代交代」でした。非執行の社内取締役では、松﨑さんと塩見さんが続投され、新たに伊藤さんが加わりました。執行役兼務の社内取締役には、山名さん、畑野さん、腰塚さんに加えて、大幸さんが新たに就任しています。このように継続性を担保しつつ、新しいメンバーを加えて世代交代を図ったのが大きな特色です。
- 松﨑
- 社内取締役については、友野さんが仰った指名委員会が重視することなどを踏まえ、私と代表執行役社長の協議により原案を作成します。そのうえで、私から指名委員会に候補者を提案する形となります。社内の非執行取締役には常勤の監査委員として活動してもらうので、グループの内部統制や経営管理に精通した人物を提案しました。一方、執行役兼務の社内取締役は、取締役会などの場で事業についてさらなる説明責任を果たす必要があるので、主力事業である情報機器事業の責任者を提案しています。
本年度、初の女性執行役が就任されましたが、女性登用についての考えをお聞かせください。
- 友野
- 当社の取締役・執行役の選任における大原則は、会社の永続的成長と企業価値の向上に貢献できる人、そしてステークホルダーの皆様の期待に応えられる人を選ぶことです。この大原則の前では、性別とか国籍といった属性による区別はまったく意味がありません。
- 松﨑
- 最近でこそダイバーシティの重要性が広く認識されるようになりましたが、当社では、ずっと以前からそれが当たり前であり、今回の女性執行役の選任も、決して世の中の流れに追従したわけではありません。
- 友野
- なお、社外取締役候補者選定にあたってはかなり以前からロングリストのなかに女性の名前もあがっており、実際に複数の方々に取締役就任を打診したこともあったのですが、それぞれ事情があって実現しませんでした。
- 松﨑
- 数年前に社長から依頼を受けて、女性を含めた幹部社員を選抜し、将来の執行役候補としてコーチングをしてきました。今回、執行役に就任した女性もその一人ですが、このような育成プログラムにより今後も実力ある女性が出てくるものと想定しています。
CEOのサクセッションプランについて
CEOのサクセッションプラン(後継者の計画(育成と選定))を指名委員会で監督する仕組みとした経緯を教えてください。
- 松﨑
- きっかけとなったのは、2015年に導入されたコーポレートガバナンス・コードです。コードが施行されるにあたって、当社として現状どこまで対応できているか、今後どこまで対応すべきかなどについて、私がファシリテートして取締役懇談会を開催して皆さんのご意見を伺いました。その結果、取締役会がCEOのサクセッションプランを適切に監督すべき、という補充原則にコンプライしようという結論になったのです。指名委員会等設置会社である当社において、取締役会は押さえるべきところをきちんと押さえたうえで、業務執行はできる限り執行側に任せ、その執行状況を監督する立場に回ります。その押さえるべきポイントの一つが執行役の選任であり、とりわけ重要なのがCEOの選定です。このようなことから、CEOの後継者育成計画は、本来、取締役会が監督すべき課題と捉えました。実際には指名委員会の監督マターとするのが現実的であると考え、現在、指名委員会で監督のサイクルを回しています。
- 友野
- サクセッションプランにおいて、後継者を最終決定するのは取締役会の役割であり、指名委員会は監督の立場で育成計画のチェックや助言をしていくわけです。具体的には、当社のCEOに求められる資質や経験、キャリアパスといった要件について、単に現在のCEOの意見だけでなく、各指名委員の意見も反映させながら合意を形成していきます。
- 松﨑
- CEOに求められる資質を考える時、例えば「先を読む力」「企業成長への熱意」「コミュニケーション能力」「人間的魅力」といった、どの会社にも共通する要件と、「こんな経験が必要」とか「こういう事業に土地勘のあることが必須」といった当社固有の要件があり、その両方が必要になるといった議論をしています。
- 友野
- そういった資質や要件に基づいて、CEO候補者のロングリストが作成されます。リストには、各候補者が将来CEOになるためには、今後、「こういうキャリアパスを踏んで、経験を積み、こんな知見や能力を身に付ける必要がある」といった育成プランが含まれるわけです。さらに、候補者を選出・育成していく過程では、内部評価だけではなく、外部機関を活用して候補者のコンピテンシーをアセスメントし、結果を指名委員会も共有します。
- 松﨑
- このように、さまざまな角度から後継候補者の育成状況をモニタリングし、候補を絞り込んでいくわけです。
- 友野
- モニタリングの手段の一つとして、取締役会での受け答えなどのパフォーマンスも注意深くチェックしています。また、現場の視察や部門の研究発表会などに行かせてもらう機会も多いのですが、そこでの発言や質疑応答なども人物を評価するうえで非常に参考になります。
- 松﨑
- 友野さんのおっしゃるように取締役会の場で取締役からの質問、指摘などに対応することが一番のトレーニングになります。それだけに意識的に厳しいコメントをしてしまうこともありますね。
CEOの後継者候補以外にも、執行役などの能力強化について、取締役会および指名委員会として取り組んでいることを教えてください。
- 松﨑
- この1年、指名委員会の監督のもとにCEOのサクセッションプランが軌道に乗ってきたことから、CFOやCTOといった業務執行の責任者、いわゆるCxOの後継者育成も動き始めています。社長の原案をもとに指名委員の意見を伺いながら、候補者に求められる要件や候補者の育成状況などについても議論しています。
- 友野
- CEOのサクセッションプランを回していくなかで、自動的に対象が広がっていきました。現在の経営幹部が次のCEOになることもあれば、その下から抜擢される可能性もあります。それを考えると、CEOだけでなく他の経営幹部についても計画的に後継者を育成していく必要があります。
- 松﨑
- それから、先ほどもお話ししましたように、山名社長からの依頼で将来の執行役候補者を対象にしたコーチングを現在も継続しています。例えば、取締役会への出席を想定した各自の業務に関する説明や質疑応答など、将来、執行役になるための予行演習を私の前でやってもらい、気付いた点や改善すべき点をアドバイスしています。コーチングの対象者は、はじめは少人数でしたが、1年間やってみて社長から見て育成効果が大きいということで、現在は10名を超える規模になっています。
- 友野
- もう一つ当社の工夫としてCEOを含めた後継者育成のチャートを作成しています。横軸に時間、縦軸に育成すべき役職とそのプロセスを並べます。そして例えば、現在のCxOの退任予定は何年何月だから、いつまでに何人ぐらいの後継者候補をリストアップするといった目標を立てておくことによって、定量的ターゲットも明らかになり、確実に実行に移せるのです。
社外取締役によるコニカミノルタへの評価と課題
友野さんは社外取締役に就任されて3年経ちましたが、コニカミノルタのコーポレートガバナンスをどのように評価されていますか。
- 友野
- ものすごく先進的な取り組みを、自らを厳しく律しながら、ストイックに実行されていると感じます。委員会等設置会社(現・指名委員会等設置会社)に移行したのが2003年、取締役会の実効性評価を開始したのが2004年ですから、コーポレートガバナンス・コード施行(2015年6月)の10年以上も前から、強力なガバナンス体制の構築に取り組み、近年も松﨑議長のリーダーシップのもと、一層の実効性向上に努めてきました。他社の取り組みを真似るのではなく、スタート段階からより良いガバナンスのあり方を自らつくり出してきたからこそ、いろいろな改善やアップデートが可能になるのだと思います。日本企業のコーポレートガバナンスに関しては、よく「仏つくって魂入れず」と、その形式化・形骸化を懸念する意見があります。しかし、当社の場合は、早くから仏(体制)をつくり、その後、何度も何度も念仏を唱えてきたのですから、すでに十分に魂の込もった(実効性の高い)ガバナンスに仕上がっていると思います。
当社のいろいろな事業の現場を視察されて、何か気になった点や、今後改善すべき課題があればお聞かせください。
- 友野
- 会社というのはさまざまな"仕事の現場"で形成されています。モノづくりの現場はもちろん、経理の人が働いているのも、人事の人が働いているのもすべて現場です。そのなかでも、これから大きな変革を求められるのは、やはり製造現場ではないかと思います。実際に製造現場に足を運び、エンジニアの方々と話してみると、ものすごく真面目なモノづくりの集団だなと実感します。モノづくりで鍛え抜いた技術力やノウハウの蓄積は大きな財産です。しかし、コニカミノルタという会社自体が、業容転換を進め、ビジネスを進化させていく過程においては、組織のあり方や仕事の進め方などを一回リセットする必要があると思います。例えば、モノづくりにおける開発部門と製造現場との連携のあり方をゼロから見直すなどして、開発・製造のプロセスを革新していくといった取り組みが求められるのではないでしょうか。
中期経営計画「SHINKA 2019」の進捗について
中期経営計画「SHINKA 2019」の1年目が終わりましたが、どのように評価していますか。
- 友野
- 方向や良し、というのが全体感です。「SHINKA 2019」は、前中期経営計画「TRANSFORM 2016」で仕込んできたコア技術や、顧客基盤強化などの成果を活かしながら、基盤事業での収益力強化と、将来の成長を支える新規事業創出を加速させようというものです。進むべき方向性については良いと思いますので、これからも皆がのびのびと力を発揮して、思い切りチャレンジしていただきたいと思います。その際に欠かせないのが、各施策の進捗をしっかりとモニタリングし、状況を言葉ではなく計数的に把握することです。その結果、計画どおりの数字があがってこなかったとしてもネガティブになる必要はありません。コニカミノルタという会社のなかには、ビジネスに関する知恵と経験が豊富にあるのですから、問題点がわかれば、いくらでも解決する手立てを講じることができるはずです。大切なのは、問題を見落としたり放置したりせず、早期発見・早期解決のサイクルを回していくことです。
取締役会としては、「SHINKA 2019」の達成をどのようにサポートしていこうとお考えでしょうか。
- 松﨑
- 友野さんからもご評価いただいたように、戦略の方向性は良いと思いますので、この計画をいかに実行していくかがこれからの大きな課題です。中期経営計画に基づく2018年度の計画を立案する際に、私は「今年度中に確実にやり遂げる施策・計数目標を、その理由・根拠と一緒に示してください」と執行側にお願いしました。取締役会では、今期、これをチェックシートにして施策の進捗状況をモニタリングしていきます。もちろん、経営計画を達成していくためには、引き続きいろいろなリスクを取っていかなければなりません。それだけに、リスクマネジメントの部分では、一層、取締役会としてサポートしていく必要があると考えています。例えば、最近もバイオヘルスケア分野において大規模な先行投資を実施しましたが、バイオヘルスケア部門の責任者に対しては「事業を実行していくにあたって、何か見落としている問題はないか、心配性になるくらい考えてください」とお願いしています。今後も取締役会としてさまざまな角度から中期経営計画の達成をサポートし、当社の持続的成長と中長期的な企業価値向上を図っていきます。