Q1 資本政策の基本的な方針を教えてください。
当社は「課題提起型デジタルカンパニー」を目指したビジネスモデルの変革に取り組んでおり、そのために、ここ数年間で積極的なM&Aを実施してきました。2017年度はヘルスケア事業で米国のAmbry Genetics社、Invicro社という買収額合計が1,000億円を超える大型M&Aを実施しました。買収資金は財務健全性を担保し、資本効率の維持・向上を目的としてハイブリッドローン(劣後特約付ローン)による資金調達を実施しました。
こうした積極的な成長投資と健全な財務基盤の両立を目指しながら、株主還元の充実と、資本コストを重視し、一層の資本効率(ROE目標:2019年度9.5%、2021年度11%)の向上に取り組み、事業ポートフォリオマネジメントの強化を通じて中長期的に企業価値を向上させることが資本政策の基本的な方針です。また、キャッシュ・フロー創出力強化にも取り組み、2019年度に自己資本比率50%程度、ネットD/Eレシオ0.15程度(格付け用)を目指したいと思います。
当社が目指しているビジネスモデル変革には、これからも成長投資が不可欠となります。成長戦略の実行を財務面から支えていくことがCFOとしての私の使命だと考えています。私は、日ごろから財務部門の社員に対して「ビジネス同様に、財務もイノベーティブな発想で業務に取り組んで欲しい」と伝えていますが、"ラストマン"として健全性を担保したうえで、資本効率(ROE・ROIC)向上に貢献する先進的な取り組みを実践していきたいと考えています。
資本政策の基本的な方針
当社は課題提起型デジタルカンパニーを目指してビジネスモデルの変革に取り組み、中長期的な企業価値向上に向けた持続的な成長を支えるための最適な資本政策を実施していきます。特にキャッシュ・フロー創出力の強化と資本効率(ROE・ROIC)の向上を重視し、その実現に向けて、「成長投資の実施」「株主還元の充実」および「財務基盤の強化」について、これらの最適バランスを目指した資本政策を推進し、資金効率の向上と資本コストを意識した最適な資本・負債構成を目指します。
1.資本効率の向上
資本コストを重視し、資本コストを安定的に上回るROE・ROICの向上を目指します。このために、投下資本収益※を主要な経営管理指標とし事業ポートフォリオマネジメントの強化を通じて企業価値の最大化を図ります。
※ 投下資本収益:事業収益から投下資本コストを控除した収益。どれだけ投下資本コストを上回る価値を創造したかを示す指標。投下資本収益の最大化によりROEおよびROICの向上を図る。
2.株主還元の充実
連結業績や成長分野への戦略投資の推進などを総合的に勘案しつつ、積極的に利益還元することを基本とし、配当額の向上と機動的な自己株式の取得を通じて、株主還元の充実に努めます。
3.財務健全性の担保
財務ガバナンスの強化、財務リスクの最小化、資金効率の向上、株主資本の充実により積極的な成長投資を支える財務基盤の強化を図ります。
2019年度に目指すべきバランスシート
* 格付け用:ハイブリッドローン1,000億円の50%を自己資本と認識
Q2
成長投資として積極的にM&Aを実施していますが、
M&Aの考え方や取り組みスタンス、PMIの注力ポイントを教えてください。
前中期経営計画「TRANSFORM 2016」から現在に至るまで、当社は数十社にのぼる企業買収を実施してきましたが、M&Aは、あくまでも成長戦略の推進のための一手段という位置づけです。M&Aの検討にあたっては、まず自社の強みや技術、保有資産を最大限活用してシナジー効果が創出できる領域を狙い、事前に十分な調査・検証を行い市場成長性や適社性を見極めます。また、買収先の経営陣と経営理念やビジョンなどの価値観がしっかり共有できることが重要だと考えています。その上で、事業戦略との適合性や事業計画の蓋然性、買収価格の妥当性などについて多面的な視点で適正評価を行っています。
買収プロセスでは、対象企業のビジネスモデルや技術、マネジメント体制、会計、シナジー効果とリスクなどに関して徹底したデューデリジェンスを行います。さらに、PMI(買収後の統合プロセス)の一環として、「100日プラン」と呼ぶ施策を実施しています。これはPMIを円滑かつ確実に進めるため、買収後100日間に全社のリソースを集中投下するもので、当該事業部門だけでなくコーポレート部門も参加して経営ビジョンの共有化、買収先のコンピタンスの徹底分析、経営実態の「見える化」などに取り組んでいます。また、買収後は「投資レビュー」としてモニタリングを継続することをルール化しており、とくに大きな買収案件については、毎月の経営執行会議などで経営状況を把握し、改善が必要な場合は速やかに支援を実施しています。かかる枠組みのなかで、過去に取り組んだM&Aの経験を活かし、そこでの学びや、買収先が持っているノウハウ・経験を社内で共有して、企業力を高め、将来の成長につなげていきたいと思います。
Q3
成長投資の一方で、資金管理の高度化や資本効率の向上のために
どのような施策を進めていますか?
当社はグループ各社におけるキャッシュの見える化や、資金管理の強化を目的に「グローバル・キャッシュマネジメントシステム」を導入しています。今後は為替変動対策としてグローバルネッティング(差額決済)構築に注力し、資金効率化により為替エクスポージャーを的確に把握して、効果的な為替リスクヘッジを実行していきます。
またM&Aによるグループ会社の増加にともなって、子会社の運転資金を本社が融通するケースが増えていますが、2017年度はこうした子会社の資金の動きを細かくチェックしていくためのシステム改良を実施しました。
今後、資本コストを重視し、「投下資本収益」を主要な経営管理指標として活用して、資本効率を向上させ企業価値の最大化を図り度いと思います。