2017年度の業績総括 すべての事業セグメントで増収・増益を達成しました
中期経営計画「SHINKA 2019」の1年目となる2017年度の当社グループ業績は、連結売上高が1兆312億円(前期比7.1%増)、営業利益が538億円(前期比7.4%増)の増収・増益となりました。全社合計だけでなく、すべての事業セグメントにおいて増収・増益を達成しており、中期経営計画初年度として非常に好調なスタートを切ることができました。これは前中期経営計画「TRANSFORM 2016」から取り組んできた「複合機とITサービスの融合によるハイブリッド型販売」や「顧客企業の経営課題に応える高付加価値の提案」が、市場から評価されていることの証しであると捉えています。
主力のオフィス事業では、北米や欧州、中国、インドなどの各地域で、デジタル複合機の設置台数およびプリントボリュームが増加しました。市場全体ではモノクロ複合機の販売台数は減少していますが、当社はモノクロ機の販売も伸ばしています。つまり単にモノクロ機をカラー機に置き換えたのではないということです。これが実現できたのは、ドキュメントサービスだけでなく、お客様の業務ワークフローを改善するITソリューションをともに提供しているからです。多様な業種・業態のお客様に深く入り込み、業務改革につながる高付加価値のサービスを提案できているということです。これを可能にするために、当社は過去5年以上にわたり世界規模での積極的なM&Aや新規採用を実施し、人財とノウハウの獲得に努めてきました。そうした"仕込み"の成果が、設置台数・プリントボリュームの増加として表れているわけです。
プロフェッショナルプリント事業においても、カラーデジタル印刷システムの設置台数とプリントボリュームがともに増加しています。かつてオフセット印刷からデジタル印刷へのシフトが始まった時代に、当社はいち早くデジタルへの転換を進め、「軽印刷」という新市場を自ら開拓してきました。さらにアナログ印刷用の製版フィルムで培った印刷業界の知見も活かし、熟練した職人の技が必要だった色調整や印刷位置調整を自動化しました。同事業の好調は、そのように「お客様にとっての重要な課題を解決する」ことに、当社がずっとこだわり続けてきたことの成果であると捉えています。
ヘルスケア事業では、ここ数年好調が続いているDR(デジタルラジオグラフィー)分野の伸張に加えて、超音波診断装置の分野でもシェアを拡大しました。当社の超音波診断装置は、国内では整形領域を中心に圧倒的なシェアを確保しており、これを麻酔科や産婦人科への拡大を図っています。また、海外事業拡大の布石の一つが2015年に買収したViztek社(米国)です。同社は独自の医療画像診断用ハードとソフト、医療ITソリューションサービスをワンストップで提供するプロバイダー企業であり、強力な販売網を通じ全米の病院やクリニックに深く入り込んでいます。Viztek社と当社がシナジーを発揮していくことで、DR、超音波診断、PACS(医療用画像保管・転送システム)を組み合わせた高付加価値の医療ITソリューションが提供できます。2017年度の後半からそのようなシナジー効果が顕在化し始めており、2018年度はこれが本格化すると見込んでいます。
2017年度は液晶テレビの大型化やスマートフォンの市場拡大にともなって、産業用材料・機器事業が大きく伸びたことも特筆すべき事項です。機能材料ユニットでは液晶の偏光板保護に使われる「TACフィルム」が主力製品ですが、当期はVA-TACフィルムやIPS向けZeroTACフィルムなどの高付加価値製品が大きく伸長しました。このフィルムはスマートフォンやタブレットなどテレビ以外のアプリケーションへの用途拡大も期待できます。一方、計測機器ユニットでは有機ELディスプレイの検査などに使われる計測機器が販売を大きく伸ばしました。有機ELディスプレイは今後スマートフォン以外の用途・製品にも採用拡大が予想されることから、2018年度以降もさらなる成長が期待されます。
2018年度も中期経営計画「SHINKA 2019」の中間年度として、引き続き「基盤事業」における収益力強化と「成長事業」における収益規模の拡大に努めるとともに、「新規事業」の中長期的視点での育成に向けた効率的投資を行っていきます。
2018年度の業績見通しは、売上高1兆800億円、営業利益620億円、親会社の所有者に帰属する当期利益385億円と、引き続き増収増益を予想しています。なお、この業績の前提となる為替レートについては、米ドル105円、ユーロ125円と設定しています。
M&A戦略の成果 顧客価値の向上につながるM&Aを実施してきました
2003年のコニカとミノルタの統合以来、私たちは「アナログからデジタルへのシフト」が何を意味するのか、その本質を徹底的に議論してきました。そのなかで見えてきたのは、デジタル化とは製造業にとって必ずしも良いことばかりではない、という事実でした。デジタル化という大きな波のなかで、自らのトランスフォームを怠るならば、製造業としての勝ち残りが非常に厳しくなる、という危機意識は私たちには早くからありました。
重要なのは「デジタル化によって、お客様にとってどんな新しい価値を生み出すのか?」を、しっかりと見極めることです。製造業の側からいえば「『デジタルなら、こんな新しいことができますよ』という提案がお客様にできるか?」ということです。
アナログ時代にはできなかったことが、デジタルならば可能になる。そのような新しい顧客価値の一つがプロフェッショナルプリント事業の「オンデマンド印刷」です。デジタル化によって、従来の大量生産・大量消費というビジネスモデルは劇的に変わります。必要なものを、必要な数だけ、必要な場所でつくれるという「究極のカスタマイゼーション」が実現するからです。加えてCO2を排出する商品輸送も、余ってしまった印刷物の廃棄もなくなるため、地球環境保全やサステナビリティにも貢献できます。またオフィス事業においても、お客様企業にある情報・コンテンツの流れを業務プロセスとして理解し、それを「自動化」し、「最適化」することで、生産性向上やセキュリティ強化などお客様企業における多くの業務課題を解決することが可能になります。
しかしながら、デジタル化によるそうした新たな顧客価値を創出していくには、当社にない技術やノウハウ、人財を外部から短期間で獲得する必要がありました。そのため、当社は積極的なM&Aの推進によって北米や欧州、アジアで40社近くのITサービスの関連企業をグループに加えてきました。
当社のドキュメント印刷の技術・ノウハウと、買収企業のITの力を融合して新しいソリューションとしてお客様に提供する「ハイブリッド型販売」を実現していくために、M&Aに際しては地域への密着性や当社事業との親和性などさまざまな要素を慎重に吟味し、シナジーを発揮できると確信できる企業を選び抜いて当社グループに加えてきました。そして、買収後は早い段階で当社の事業部門の社員と買収先企業の人財を融合させ、お客様の業種・業態別にチームを再編成し、ハイブリッド型販売を進めていく過程で両者の一体感を醸成してきました。
オフィス事業におけるこうしたM&A戦略は、主要顧客である中堅・中小企業への提案力強化につながっていることはもちろん、大手・グローバル企業のニーズへの対応力も高めています。その結果、例えば4~5年前からさまざまなグローバル企業を対象に、印刷システムの一括サービスというビジネスが好調に拡大しています。
2017年度は、ヘルスケア事業でも大型のM&Aを実施し、これによって当社は「プレシジョン・メディシン」の領域に本格的に参入しました。ヘルスケア事業では数年前から、事業の将来に関して徹底的に議論してきました。そこで議論の焦点となったのは、当社が写真フィルムで培った技術ノウハウを活かして開発したタンパク質精密定量化技術「HSTT(High Sensitive Tissue Testing)」の可能性でした。HSTTはがん細胞などの特定タンパク質を高精度に定量化する技術で、海外の学会をはじめ色々な方面から評価をいただいていました。
このHSTTを核に、早期の確実ながん診断や、効果的な治療薬の開発や投薬に貢献できるプレシジョン・メディシン事業を構想したわけですが、事業化にあたって外部に求めたものの一つが「遺伝子解析」の技術でした。プレシジョン・メディシンの両輪である「タンパク質」と「遺伝子」の両方を解析できる企業はまだ世界に存在せず、これを目指そうと考えたのです。もう一つ、当社に不足していたのが製薬業界との太いパイプでした。そこで、すでに創薬支援事業を手がける企業、それも最先端のAIを新薬開発に活用している企業を探索しました。
2017年度のプレシジョン・メディシン事業における2件の大型M&Aは、この2つの要素の獲得にほかなりません。1社は遺伝子診断の会社、Ambry Genetics社(AG社)です。AG社の遺伝子診断技術と当社のタンパク質精密定量化技術を組み合わせることで、より高精度に患者様の層別化が可能となり、新薬開発の成功率の向上や、より効果的な投薬に貢献することができます。もう1社は、Invicro社という創薬支援サービスを展開する企業です。創薬の一番上流の前臨床のところで、イメージング(画像)を使ってバイオマーカーを発見するという非常に大切な機能を多くの製薬会社から受託している企業であり、同社の機能と当社のHSTTやAG社の遺伝子診断を組み合わせることで、がんやアルツハイマーといった疾患に対する新薬開発を支援できるようになります。このプレシジョン・メディシン事業はまさに社会課題の解決に向けた取り組みそのものであり、当社の中長期での企業価値向上にとって非常に重要であると考えています。
中長期の成長戦略 データを活用した新たなビジネスモデルで高収益企業を目指します
情報・デジタル技術の目覚ましい進展によって、世界は大きな変革期を迎えています。さまざまな領域で、従来の常識を根底から覆すようなパラダイムシフトが起こりつつあります。
以前から言ってきたことですが、こうした「激動の時代」は、当社にとって非常に大きなチャンスであると私は捉えています。当社の多様な事業領域のそれぞれにおいて、新しい価値や世の中のあり方を自ら提起していくことができる。変化への対応ではなく、自らが変革の先頭に立てる。だからこそ、激動の時代はチャンスになるのです。
中期経営計画「SHINKA 2019」では「課題提起型デジタルカンパニー」を当社の目指すべき姿として掲げています。これを実現していくには、モノづくり力、技術力、開発力など当社がメーカーとして培ってきた多くの強みを継続的に磨きながら、改めて顧客視点、人間中心の視点に立って新たなビジネスフレームを構築していく必要があります。
当社はメーカーとしての高品質のモノづくり力、ハードウェアの開発力を保有しています。それに加えて、前中期経営計画期間を通して周到に仕込んできたITソリューションの力があります。それらを融合させた事業展開のなかで、さまざまな領域の貴重なデータが集積されており、それをAIやディープラーニングといった先端技術で解析し可視化することにより、今までになかったビジネスモデルや顧客価値が生み出せるはずです。そのようなIoT時代にふさわしい、高付加価値のプラットフォームビジネスを今後数年かけて確立していく方針です。
この新しいプラットフォームが、2018年度に発売を予定している「Workplace Hub(WPH)」です。先述のように、当社は、多様な業種・業態のお客様の「業務」に入り込み、ドキュメントとITサービスをハイブリッドで提供することで付加価値を高めてきましたが、今後はこのWPHというプラットフォームを中核としたソリューションビジネスを展開していきます。現在のデジタル複合機の設置スペースにこのWPHを置いていただくことで、ITサービスをワンストップで利用できるだけでなく、さまざまな業種・業界の業務改善に役立つデータが集積できます。
例えば製造業ならば、生産設備の稼働率を可視化して効率化や品質向上、ロス低減に結びつけることができます。あるいは働き方改革に活用すれば、情報セキュリティを担保しつつ効率的なリモートワークを実現することも可能です。介護分野でも、より良いケアサポートのための施設空間のあり方や介護する人の動線、物の配置の最適化など、WPHを活用したデータの集積・解析によってこれまでになかった顧客価値を創出することができるのです。
これは、大手ITサービス企業のように膨大なビッグデータをクラウドで解析するというものではありません。当社の強みは、デジタル複合機のビジネスを通して全世界約200万社のお客様と直につながっていることです。そうした多種多様な業種のお客様の現場(エッジ)で、お客様と一緒になって新しい価値を実現していくことが、当社の目指すところです。それにはWPHで集積したすべての情報をクラウドまであげる必要はありません。データを解析して、現場で集めたデータや画像をその場で瞬時に処理して、それぞれの業務を改善につなげていけば良いのです。クラウドに何もかもあげていては巨大データセンターをいくらつくっても追いつかないでしょう。持続可能な社会の実現という意味からも、エッジでの課題解決という当社の方向性は間違っていないと考えています。
もう一つの中長期的な戦略分野であるプレジション・メディシン分野においても、デジタルデータの集積・解析が鍵を握っています。2018年1月には、米国にプレジション・メディシン事業のグローバル本部を設立し、事業運営体制を整えました。今後は当社とAG社、Invicro社の3社が一体になることで、がん治療や創薬支援分野の飛躍的な進歩をもたらす診断サービスを確立できると信じています。3社の専門分野の人財と規模の相乗効果を組み合わせることで、米国、日本のみならず、欧州への事業拡張も視野に入ってきており、4年後の2021年度には同事業の売上高1,000億円、営業利益率20%以上を目指します。プレシジョン・メディシン分野で世界トップクラスの地位を確立することで、世界中の医療機関の運営体制にも影響を及ぼすことができる存在になっていきたい と考えています。
こうした取り組みにより、中期経営計画最終年度となる2019年度には、経営目標「営業利益750億円以上、親会社の所有者に帰属する当期利益500億円、ROE9.5%」の達成を目指します。そして、その先にある2021年度には、中期目標「営業利益1,000億円以上、親会社の所有者に帰属する当期利益700億円以上、ROE11%」の達成を見据えています。
デジタルによる付加価値向上と顧客関係強化
長期的な企業価値向上 ESGのトップランナーを目指します
当社は、「新しい価値の創造」という経営理念のもと、その時代ごとに求められる新しい価値を追求しながら、社会とともに発展してきました。近年、環境問題や高齢化、人材不足などの社会課題が顕在化するなか、国連での「持続可能な開発目標(SDGs)」採択や投資市場におけるESG(環境・社会・ガバナンス)投資への関心の高まりなど、企業のサステナビリティに対する取り組みへの期待が急速に高まっています。私は、企業の成長とは、社会の課題解決につながる成長であるべきだと考えています。「経済的価値の向上」と「社会的価値の向上」という両輪がしっかり回らなければ、企業の持続的成長や中長期での企業価値の向上はなし得ないと考えています。この意味において、私は経営戦略の具現化=ESGの強化であると捉えています。10年後、20年後を見据えて、さまざまな社会的課題の解決に貢献していく当社の事業戦略そのものがESGへの取り組みであると思っています。
オフィスの生産性を飛躍的に高める、創造性を発揮できる働き方を実現する、世界の患者様のクオリティ・オブ・ライフを高める等々、当社が各事業部門で進めている戦略はすべて人間社会そのものの「進化(SHINKA)」に貢献するものであり、それが中期経営計画のタイトルにこの言葉を冠した理由でもあるのです。
社会課題の解決を実現するのは技術のみならず、人財の力が欠かせません。約4万3,000人の従業員が自ら、社会のため、お客様のために正しいことを実行する力を高められれば大きな力になります。そのため、多様な経験や背景を持った人財が交り合い、お互いを認め合い、刺激し合うことで、新たなアイデアが次々と生まれる組織へと変革していかなければなりません。そうした風土を醸成し、人財の力を引き出すことが経営者としての私の役割です。
また、コーポレートガバナンスに関しても、内部統制など「守りのガバナンス」も必要ですが、しっかりとリスクテイクをしながらも企業としての社会課題解決への挑戦を支えていく「攻めのガバナンス」に進化させていく考えです。
さらに、より中長期視点で経営を推進していくために、2017年度から役員報酬制度を改定し、中期業績連動株式報酬制度を導入しましたが、これにあわせて、ESGなどの非財務指標も執行役の業績評価の項目に盛り込み、取締役会においてモニタリングする仕組みを導入しました。
今後も、ESG側面でのリスクを抑制するといった消極的な捉え方ではなく、世界のトップランナーとなることを目指した積極的な取り組みを進めることで、グローバル社会から支持され、必要とされる企業を目指します。
株主還元 配当の絶対額にこだわり、継続的な増配に努めます
当社は、持続的な成長を実現するために積極的な成長投資を進めるとともに、創出した利益・キャッシュについては、株主の皆様に積極的に還元していきたいと考えています。その際に重視しているのが配当の絶対額です。
当社では、中長期的な視点から成長を支援していただける投資家の皆様に当社の株式を保有していただきたいと考えています。したがって短期的な業績変化に応じて配当額を上下させるのではなく、継続的に増配を果たすことで株主の皆様の期待に応えていきます。さらに、配当だけでなく自己株式取得などにも取り組んでいきます。
この利益還元方針のもと、2018年3月期の年間配当額は30円(前期30円)としました。また、2019年3月期の年間配当額は30円を予定しています。
私たちコニカミノルタは、これからも株主様をはじめ幅広いステークホルダーの皆様の信頼に応えながら、持続的な成長を図ってまいります。皆様の一層のご支援、ご鞭撻を賜りますよう、お願い申しあげます。