程 近智
アクセンチュア株式会社代表取締役社長、同社取締役会長などを歴任。企業経営者として豊富な経験とデジタルビジネスに関する幅広い知見を有することから当社指名委員会より社外取締役候補者に選定され、2018年6月に就任。現在、指名委員会委員および監査委員会委員を務める。
藤原 健嗣
旭化成ケミカルズ株式会社代表取締役社長兼社長執行役員、旭化成株式会社代表取締役社長兼社長執行役員、同社取締役副会長などを歴任。M&Aを活用した新規事業の育成など企業経営者として豊富な経験、幅広い知見を有することから当社指名委員会より社外取締役候補者に選定され、2018年6月に就任。現在、指名委員会委員長および監査委員会委員を務める。
前中期経営計画「SHINKA 2019」についてどのように評価していますか?
- 藤原
- 「SHINKA 2019」の策定時、社会のペーパーレス化が加速するなか、このままでは会社の存続が難しくなるという強い危機感があったはずです。そこで事業ポートフォリオの抜本的な変革を目指し、M&Aや新規事業開発に注力してきたのですが、まだ思い通りの成果が出ていないのが実状です。
- 程
- 「SHINKA 2019」で描いた戦略には私自身としても納得感がありました。特に「Workplace Hub」とバイオヘルスケアをメインとした新規事業の展開は、戦略として非常に理にかなったものです。ただし現時点では、具体的なサービスやソリューションは軌道に乗っていません。実行のスピードが大きな課題だと思います。
- 藤原
- そうしたなか2019年度に入り、米中の貿易摩擦の激化や新型コロナウイルスの感染拡大によって経済環境が大きく変化しました。当社は期末の売上比率が高いため、第4四半期でしっかりと成果を出そうとした矢先、コロナ禍に直面する形になりました。私は就任以来この期末偏重の事業構造を見直すべきと提言してきました。かつて経営に携わってきた住宅事業も年度末に売上が集中する構造でしたが、ビジネスの生産性を高めると同時にお客様のメリットにもなる方法を考えながら平準化を進めていった経緯があります。当社でも強い意志を持って取り組めば実現できるはずです。そのためにも、事業ポートフォリオの変革が急がれます。基盤事業が縮小するなか、新規事業に経営資源を投入し、企業体としての新陳代謝を図ることが大切です。
特に「Workplace Hub」については、今後の当社を担えるくらいのアウトプットを期待しているのですが、やはり新規事業の立ち上げには、相応の時間と資金投入が必要です。また、それを新しい事業の柱へと育てるには、もっとターゲットを絞り込み、限りある資源を集中投下しなければなりません。現状はまだ絞り込みが足りないと感じています。
- 程
- それだけに新規領域に進出する際には、より慎重な“レンズ”で見る必要があります。例えば、買収した企業の成果の刈り取りにおいても見通しが少し楽観的であったので、そうした点は是正すべきです。もちろんリスクテイクは必要なのですが、それを補って余りあるシナジー、リターンが見込めるかどうかを慎重に見極めることが重要です。
- 藤原
- 一方、基盤事業である情報機器分野では、ペーパーレス化によって市場が縮小しても、その機能が不要になることはありません。したがって、売上規模でなく付加価値を追求する、あるいは業界再編を促してシェアを拡大するなどの戦略を考える必要があります。
2020年度から新中期経営戦略「DX2022」がスタートしましたが、どのようなことを期待しますか?
- 程
- 基本的には「SHINKA 2019」で描いた戦略や施策をしっかり点検しながら、それをさらに発展させるべきだと思います。ただし、一旦リセットしなければならない部分もあります。例えば、外部環境の変化や、前中期経営計画に取り組む際に課題となった戦略の実行能力など、改めて詳細にチェックしたうえで、事業ポートフォリオのトランスフォーメーションを推進すべきだと思います。
- 藤原
- 私も「SHINKA 2019」の基本方針を継承すべきだと考えています。しかし、程さんも指摘するように外部環境がかなり変わってきました。例えば、新型コロナウイルスは、経済や社会にさまざまな変化をもたらしていますが、より重要なのはそれにともなって人々の価値観が大きく変化しつつあることです。そのような変化のなか、このビジネスモデルが正しいといった絶対的なコンセンサスを得ることは困難です。つまり、これからは“何が正しいか”ではなく、方向性を決めたうえで“先に動いた方が勝つ”時代になるのではないでしょうか。
- 程
- 例えば「Workplace Hub」は、その象徴的な例といえます。当社独自のビジネスですし、着眼点としては非常にユニークです。日・米・欧で連携して企画・開発・マーケティング・管理運用を行うという、グローバル企業でもあまり例を見ない事業体制を採っています。それだけに実現のためのハードルは高く、事業を軌道に乗せるまでに時間を要しているわけですが、実行体制を徹底的に検証して改善を進めていけば、将来の事業の柱に育つ可能性は十分あると考えています。
- 藤原
- 「DX2022」では、DXによるソリューションビジネスを強化する方針ですが、実行力に磨きをかけてスピード感を持って新たなビジネスモデルを確立することが重要だと思います。
- 程
- さらに、これからは企業戦略にESGの視点を組み込むことが不可欠です。コニカミノルタは、とりわけガバナンスにおいて先進的な企業と評価されていますが、社外取締役の立場から見ても非常にストイックにガバナンスに取り組んでいると感じます。また、環境側面、社会側面についても先駆的な取り組みを行っています。しかし、残念ながら株価には反映されていません。もっと対外的にアピールしてレバレッジを効かせていくべきではないでしょうか。
- 藤原
- その点では、今回、当社が重要と考える社会価値を明確化し、5つのマテリアリティを再特定しました。さらに今後、マテリアリティごとに環境・社会価値に関するKPI、経済価値のKPIをそれぞれ設定・発表していきますので、対外的にも当社の取り組みが伝わりやすくなるはずです。
社外取締役として、今後、コニカミノルタの経営をどのようにサポートしていこうとお考えですか?
- 程
- 株主視点から見ると、やはり時価総額が低いことが大きな課題だと思います。時価総額というのは将来の期待値も含めた評価でもあるのですが、これだけの技術力とグローバルネットワークを有し、デジタルシフトに力を注いでいる会社であるにもかかわらず、残念ながらマーケットからは旧来型の製造業と見られています。そのような見られ方を払拭するには、コニカミノルタが「デジタル時代に必要不可欠な会社」であることを、この10年で証明していかなければなりません。DXを軸とした事業を展開していくうえで難しいのは、ソリューションで収益をあげることです。私自身、デジタルビジネス、デジタルサービスに携わってきた経験を活かして、その課題について一緒に考えていきたいと思います。
- 藤原
- 私たち社外取締役は取締役会において、社内取締役や執行役と戦略を議論しますが、方向性や目指す姿が定まった後は、少し距離を置いたところからモニタリングし、必要なときにはサポートしていくべきだと思います。進む方向さえ正しければ、個別の事業運営は執行役に任せれば良いのですから。そして何か壁に突き当たってうまくいかない場合は、社外の目線で問題点を探り、当事者の悩みや迷いを解きほぐすなどして、背中を押してあげるのが役割だと考えています。
- 程
- 「複合機はなくなるかもしれない」というマーケットの懸念を払拭するようなデジタルソリューションを実現し、当社がデジタルの最先端を行く企業であると認知してもらうことが大切です。「DX2022」が確実にスタートできるように、現状の良いところも悪いところも率直に意見し、エンゲージしていきたいと思います。