資本効率を意識した経営 成長投資、株主還元、財務基盤強化の最適バランスを目指した資本政策を推進
当社は、創業以来培ってきた「イメージング」の技術を活かし、多くの人々が生きがいを感じることのできる、持続的な社会の実現に貢献することを目指しています。そのために重要なのは、長期的な視点に基づいて、「人間社会にとっての新しい価値提供(社会価値)」と「事業の成長(経済価値)」を一体化させることによる企業価値の持続的な向上であり、それに資する最適な資本政策(財務戦略)を実行していくことがCFOとしての私の最大の使命であると認識しています。
資本政策において私が特に重視しているのは「キャッシュ・フロー創出力の強化」と「資本効率(ROE/ROIC)の向上」です。「成長投資」「株主還元」「財務基盤強化」の最適なバランスを保ちながら、資金効率の向上と資本コストを意識した最適な資本・負債構成を目指していきたいと考えています。
「KM-ROIC」「投下資本収益」を指標に、資本効率を向上
2019年度は、「Workplace Hub」、バイオヘルスケアなどの新規事業の成果出しが当初想定よりも時間を要したことに加えて、新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大にともない当社が強みを持つ欧米を中心に販売活動が制約を受けたことで、減収・減益を余儀なくされ、ROE/ROICも大幅に悪化する結果となりました。
新型コロナウイルス感染症が依然として猛威を振るう現状を考えると、2020年度はより難しい舵取りが求められます。資本コストを上回るROE/ROICの回復に向けて事業の推進力を高めるとともに、事業用資産に対する事業利益の最大化(投下資本効率)により徹底的にこだわっていく方針です。
具体的には、2020年度から「KM-ROIC※1」および「投下資本収益※2」を重要な経営管理指標と位置づけ、両指標の最大化を通して資本効率向上を図っていきます。KM-ROICについては、今後の事業ポートフォリオ転換の評価基準として活用していきます。また投下資本収益については、管理職の賞与決定に用いる業績評価や、子会社経営健全度評価にも活用しています。
これらによって従来の損益を中心とした業績管理から、投下資本効率を中心とした新しい業績管理への転換を進めていきます。資本コストに対する各部門の意識を高めていくため、e-ラーニングを利用して投下資本効率化活動の事例を紹介するなど啓発活動にも努めており、経営層から一般従業員まで全社一丸となって投下資本効率化活動を推進していきます。中期的には運用の徹底・強化とともに適用範囲の拡大を推し進め、厳しい事業環境にも対応できる、柔軟かつ強固な財務基盤の構築と、企業価値の最大化を図っていきます。
※1KM-ROIC:事業利益を投下資本で除した比率。事業活動のために投下した資本を使って、どれだけ事業利益を生み出したかを示す指標。
※2投下資本収益:事業利益から投下資本コストを控除した金額。どれだけ投下資本コストを上回る価値を創出したかを示す指標。
キャッシュ・フロー創出に向けた設備投資・投融資
当社グループでは業容転換を進めつつ、基盤事業の収益力向上、運転資本の効率化などによって営業キャッシュ・フローの創出に注力しています。また効率的な設備投資・投融資により、フリー・キャッシュ・フローの最大化を目指しています。
2019年度の設備投資の総額は508億円となりました。主な投資対象は、オフィス事業およびプロフェッショナルプリント事業の機械装置、金型、その他工具器具備品、産業用材料・機器事業の機械装置、全社における建物および研究開発設備です。一方、投融資の総額は79億円でした。主なものは、産業用材料・機器事業におけるスペインの自動車向け外観計測事業を展開する会社の買収などです。所要資金については、いずれの投資も主に自己資金にて充当しました。
2020年度についても、デジタルワークプレイス事業およびプロフェッショナルプリント事業ならびにインダストリー事業を中心に投資を予定しています。生産設備の拡充、新製品対応に加えて、国内生産拠点の再整備ならびにグローバルでの開発機能強化と関西エリアにおける拠点最適化・効率化のための戦略的投資を厳選したうえで実施する予定です。
株主還元の充実
当社は、連結業績や成長分野への戦略投資の推進などを総合的に勘案しつつ、株主の皆様への積極的な利益還元を行っていくことを経営の基本方針としており、配当額の向上と機動的な自己株式の取得を通して、株主還元の充実に努めています。
2019年度は赤字決算となりましたが、株主の皆様への配当は1株当たり中間配当15円、期末配当10円の合計25円で実施させていただきました。2020年度については、コロナ禍により当期赤字の業績見通しとさせていただいていますが、オフィス事業や新規事業の収益改善施策、一段下げた固定費水準を維持するなどの施策を講じており、2021年度、2022年度の利益をコロナ禍以前の水準に戻す蓋然性を高めることで、2019年度の配当水準を維持し、1株当たりの年間配当予想を25円とさせていただきます。
財務基盤の強化
当社では財務ガバナンスの強化、財務リスクの最小化、資金効率の向上、株主資本の充実により、積極的な成長投資を支える財務基盤の強化を図っています。
円滑な事業活動に必要な資金の源泉としては営業活動から得られるキャッシュ・フローを基本としつつ、財務の健全性・安定性を維持しながら金融機関からの短期借入・長期借入や社債発行による外部資金の調達を行うことで手元流動性を確保しています。長期資金の調達に際しては、償還や返済の時期を分散することでリスク低減を図っています。また、グループの資金調達は主に当社が担っており、必要資金を関係会社にキャッシュ・マネジメント・システムを通じて供給することで資金調達の一元化や効率化を図っています。
当社には2019年度末時点で約900億円の現金及び現金同等物の期末残高がありますが、新型コロナウイルス感染症の拡大による不測の事態に備え、2020年4月に金融機関から850億円の資金調達を実施しています。このほかに複数の金融機関との間で設定している計3,000億円(2020年5月末時点)のコミットメントラインが手つかずで残っており、今後の新型コロナウイルス感染症の拡大による事業への影響に対処するための十分な手元流動性を確保できていると捉えています。
なお当社の既発行社債の債券格付、発行登録予備格付はともに株式会社格付投資情報センター(R&I)および株式会社日本格付研究所(JCR)からA格を取得しています。
事業ポートフォリオ経営 KM-ROICを管理指標として事業ポートフォリオマネジメントを強化
タブレット端末やスマートフォンなどのデジタル機器の普及やワークスタイルの変革を背景に、近年オフィスでは紙からデジタルデータへの代替が急速に進んでいます。オフィス事業を中核事業とする当社は、こうした市場変化に対応すべく、中長期的な視点のもと、過去6年間・2回の中期経営計画期間において「Workplace Hub」、産業印刷、バイオヘルスケア、外観計測、状態監視ソリューションといった新分野への積極的な先行投資を行い、事業構造の変革を目指してきました。
2020年度から始まる新中期経営戦略「DX2022」においても、将来の成長に必要不可欠なデジタルワークプレイス、プレシジョンメディシン、計測機器などの領域を中心に領域を厳選して先行投資を継続していきますが、今後はこれまで実施した先行投資のリターンの最大化と、資本効率向上により重きを置くことで事業ポートフォリオの最適化を図り、資本効率の向上と企業価値の最大化を目指していく方針です。
事業ポートフォリオ最適化にあたっては「事業の魅力度」「継続的に勝てるか」「自社戦略との適合性」という3つの視点から各事業の評価を進めています。このうち「事業の魅力度」を判断する重要指標の一つが、先述したKMROICです。各事業ユニットでの投下資本効率の実績や業界水準などを考慮したうえで、中期的観点からその事業に期待するKM-ROIC下限目標値(ハードルレート)を設定し、その達成に向けて事業戦略策定と事業運営を行っています。新規事業開始や新規投資実施に際しても、リターンがこのハードルレートを超えることを一つの判断基準としています。さらに投資後も定期的なレビューによりKMROICをチェックすることでリターンの最大化につなげていきます。
一方、事業の撤退や縮小の判断についても、事業収益性や投下資本効率などの基準値を定めた「Exitルール」を設定しており、モニタリングを通してこれに抵触した場合は当該事業を撤退候補とし、具体的な撤退検討を行うこととしています。また事業売却などにより獲得したキャッシュについては、成長戦略に基づく追加投資に活用し、中長期視点での事業ポートフォリオ最適化、資本効率向上ならびにキャッシュ・フローの最適化につなげていきます。
今後も、投下資本効率向上とデジタルトランスフォーメーション(DX)の両立を目指して、積極的に事業ポートフォリオの転換を進めていきます。
資本コストを意識した「事業の魅力度」評価
リスクマネジメント リスクの影響度・発生頻度を検証し、重要リスクを特定
当社ではグループの事業活動における各種リスクを総合的・体系的に管理すべく、私を委員長とするリスクマネジメント委員会を設けています。同委員会は当社グループ各社のリスクマネジメント体制の構築と強化を支援する役割を担っており、委員長が指名したメンバーにより構成されます。当社の執行役は、各々の担当職務に関するリスクマネジメントを行うことが義務づけられており、上記委員メンバーは執行役以上により構成されています。同委員会は年間2回定期的に開催され、当社のリスク分類体系に基づき各部門から抽出されたリスクを影響度・発生頻度で表すグループリスクマップにて確認し、対応策を協議しています。また何らかの予測不能の事態が生じた場合は、必要に応じて委員長の判断で、臨時委員会の招集を行うこととしています。同委員会で重要度が高いと判断されたリスクについては、月次・四半期の単位で対応策進捗状況をレビューし、特に重要と判断したリスクに対しては、委員長から指名された執行役が中心となり、グループとしての対応を図っています。
当社は、リスクとは組織の収益や損失に影響を与える「不確実性」であると捉えています。その意味において、リスクマネジメントは、リスクのマイナス側面だけでなく、収益の源泉としてのプラス側面からも捉えたうえで、リスクのマイナス影響を抑えつつ、リターンの最大化を追求していく活動であるといえます。
グループ重要リスクの特定フロー
例えば、新型コロナウイルス感染症の拡大は、当社の販売活動に大きなマイナス影響を与えていますが、2020年1月時点でCEOを最高責任者とする危機管理臨時体制を立ち上げ、従業員とその家族、顧客、お取引先などのすべてのステークホルダーの健康と安全を最優先としたうえで、いち早く生産拠点の活動を再開することができました。また、経済活動の再開過程においては、医療従事者への一層の支援が必要とされるとともに人々の価値観や働き方にも変化が生じることが想定されます。胸部X線のAI診断支援、遠隔診断支援、米国でのPCR検査の上市、「Workplace Hub」を活用した多拠点連携による働き方改革支援、自社実践から得られたテレワークのノウハウ提供、AI解析によるサーマルカメラの体表温度測定ソリューションなどは、コロナ禍という大きな社会課題の解決に貢献することが、当社の事業拡大にもつながることを示しています。
また、世界各地で発生している異常気象などの気候変動をはじめとした地球環境問題の進行についても、将来にわたり当社の事業継続ならびに業績に影響を及ぼす可能性があります。こうしたリスクを認識し、当社グループでは、2050年までに自社の製品ライフサイクルにおけるCO2排出量を80%削減することを目指し、2030年までにはその排出量を60%削減したうえで、その排出量を上回る社会・お客様でのCO2排出量削減を生み出し、「カーボンマイナス」を実現することを目指した取り組みを進めています。加えて、気候関連のリスクと機会を踏まえた取り組みについては、「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD:Task Force on Climate-related Financial Disclosures)」のフレームワークに沿って開示しています。
このように今後も多様なリスクを中長期の視点から適切にマネジメントすることによって持続的な企業価値の向上を目指していきます。