資本コストを重視した経営 Q1.資本効率向上のための方針・考えを教えてください。
当社は「課題提起型デジタルカンパニー」を目指し、中長期の将来を見据えて「新規・成長事業」領域へ積極的な先行投資を続け、「事業ポートフォリオ」の進化による資本効率の向上に取り組んでいます。そのなかで、2018年度のROEは7.7%(対前年度+1.6pt)となりました。
今後の利益率・ROE向上のためには、以下の2つが最優先課題であると考えています。一つは、これまでのM&Aや研究開発・設備投資を含めた先行投資を確実に成果に結びつけ、Workplace Hub、バイオヘルスケア事業、産業印刷といった「新規・成長事業」の拡大を加速させ、新たな価値創造や顧客価値拡大の実現を図ること。そしてもう一つが、「基盤事業」において、新製品投入によるシェア拡大やコスト改革の成果出しにより着実に稼ぐ力を向上させることです。
そのために、新規・成長事業については、売上高創出に力を入れ、それに直接結びつく事業ごとの顧客数、顧客単価などのKPI管理を強化していきます。また、「基盤事業」は、これまで着実に実績を積み上げてきましたが、一層の生産性向上や運転資本の改善により、利益率の改善が確実となるような経営に努めていきます。
Q2.資本効率を高めていくためにどのような施策を進めていきますか?
ROEを向上させる要素としては、「利益率向上」に加えて、「資産の有効活用(総資産回転率)」や「財務レバレッジ活用」がありますが、当社は利益率向上と資産の有効活用を重要視し、事業に直結した施策展開を可能とするために、「投下資本に対する利益の最大化」、すなわちROICならびに投下資本収益※の最大化に注力し、事業ポートフォリオマネジメントの強化を通じて企業価値の最大化を図ります。
そのために、基盤事業を中心とした事業ごとのROICならびに投下資本収益管理を強化・徹底することで、加重平均資本コスト(WACC)を上回るリターンを創出すること、加えて、事業ポートフォリオの見直し・組み換えにも活用することで、資本効率の向上につなげていきます。また、事業ごとに在庫圧縮などによるキャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)の最適化、設備投資・投融資計画の定期的な見直し、事業の選択と集中の加速などを進めることにより、資本効率化を進めていきます。
こうした投下資本収益の考え方を、事業管理にとどまらず、「事業別業績の評価」や「子会社経営健全度評価」にも組み込み、事業別業績や子会社経営改善に向けた動機づけにも活用しています。
このような経営の考え方のもと、私として大変重視していることに「現場力の強化」という視点があります。投下資本収益の向上施策が、現場の一人ひとりの日々の行動につながることが、いわゆるファイナンスの教科書で解説するような形ではない、本質的な企業力の強化に直結すると考えています。2019年度は、事業部門とコーポレート部門がさらに一体となって、投下資本収益の向上に向け、「目標設定」「仕組みづくり」「理解浸透・動機づけ」を行い、モニタリング・評価し、全社的な取り組みを加速します。
こうした取り組みにより、ROICスプレッド(ROIC-WACC)とエクイティスプレッド(ROE-株主資本コスト)を向上させ、企業価値・株主価値の最大化を図ります。
※投下資本収益=事業利益-投下資本×投下資本コスト率(どれだけ投下資本コストを上回る価値を創造したかを示す指標であり、投下資本コストα%として、事業別投下資本収益を算出)
「投資」と「株主還元」への利益配分 Q3.成長投資と株主還元への利益配分の考え方を教えてください。
ビジネスモデル変革のための積極的な成長投資と健全な財務基盤の両立を目指しながら、株主還元の充実と、資本コスト重視の経営、事業ポートフォリオマネジメント強化によって、一層の資本効率向上を進め、中長期的に企業価値を向上させることを、当社の資本政策の基本としています。
特に、業容転換を進めつつ、基盤事業の収益力向上、運転資本の効率化などによって営業キャッシュ・フローの創出に注力し、効率的な設備投資・投融資を行うことにより、フリー・キャッシュ・フローの最大化を目指します。創出したフリー・キャッシュ・フローは、株主還元ならびに財務基盤の充実に活用します。
2019年度の営業キャッシュ・フローは、利益の積み上げと運転資本の改善により、前年度を250億円以上上回る850億円を見込んでいます。投資キャッシュ・フローは600億円(除く投融資)の予定となっており、フリー・キャッシュ・フローは、250億円を見込んでいます。創出したフリー・キャッシュ・フローのうち、約半分を株主還元に充てる計画となっています。投資については、世界情勢、市場状況、事業の成長性、資本コストに対するリターンなどを充分に考慮したうえで、的確な投資判断を継続することで、資本効率向上、フリー・キャッシュ・フロー最大化ならびに株主還元の充実につなげていきます。
Q4.設備投資・投融資の進捗と計画を教えてください。
2018年度の設備投資は、総額525億円となりました。新製品の開発、生産能力増強などを主目的に、特に当社の中核事業であるオフィス事業およびプロフェッショナルプリント事業ならびに産業用材料・機器事業に重点的に投資しました。投融資の総額は140億円となっており、主なものは、今後のWorkplace Hubの展開も視野に入れてフランスにおいて複合機直販チャネル・顧客基盤の強化・拡充のために実施した代理店買収となります。所要資金は、いずれの投資も自己資金にて賄いました。
2019年度の設備投資についても、オフィス事業およびプロフェッショナルプリント事業ならびに産業用材料・機器事業を中心に総額600億円の投資を予定しています。生産設備の拡充、新製品開発に加えて、開発・生産のグローバル最適化によるデジタルトランスフォーメーション(DX)加速の一環として、国内で分散している開発・生産機能の集約・再編を実施し、事業のさらなる高付加価値化を目指します。さらに、画像IoT開発の強化に向けて、関西エリアに新しい開発棟を建設し、併せて国内拠点最適化・効率化のための戦略的投資を計画しています。
投融資に関しては、バイオヘルスケア事業や計測機器事業における外観検査領域をはじめとして、成長戦略の加速を目的に200億円を予定しています。
Q5.配当に関する方針と実績を聞かせてください。
配当方針としては、連結業績や成長分野への戦略投資の推進などを総合的に勘案しつつ、株主の皆様へ積極的に利益還元することを基本としています。配当額の向上と機動的な自己株式の取得を通じて、株主還元の充実に努めます。
2018年度の年間配当は1株当たり30円となり、配当性向は35.6%となります。2019年度につきましては、年間配当1株当たり30円を予定しており、配当性向は39.6%の見込みとなっています。当社の配当性向はここ数年、概ね30~40%台で推移していますが、キャッシュ・フロー、配当などを考慮した自社株買いへの機動的対応も含めて、株主還元の充実に鋭意努力していきます。
リスク認識と対策 Q6.リスクマネジメントの体制・プロセスを教えてください。
当社は、リスクを「組織の収益や損失に影響を与える不確実性」と捉えています。リスクを単にマイナスの側面からだけでなく、「収益の源泉」としてのプラスの側面からも捉えたうえで、リスクマネジメントを「リスクのマイナス影響を抑えつつ、リターンの最大化を追求する活動」と位置づけています。
私が委員長を務めるリスクマネジメント委員会は、当社グループ各社のリスクマネジメント体制の構築と強化を支援する役割を持ち、委員長が指名した委員により構成されます。当社の執行役は、それぞれ職務分掌に基づき、担当職務に関するリスクマネジメントを行うことが義務づけられており、上記委員は執行役以上で構成されています。
同委員会は年間2回定期的に開催しています。17項目ある大分類の管理対象リスク項目ごとに、中分類・小分類にまでリスク項目を特定し、月次・四半期単位でモニタリングを行い、対応策の進捗状況をレビューしていく形で、PDCAを回しています。
こうした活動に加えて、同委員会では、毎年経営上特に重要と目される「グループ重要リスク」を複数選定し、「全社横断的に注視する必要のあるリスク」として委員会での直接の管理対象とし、委員長から指名された委員(執行役)が中心となり、当社グループでの対応を月次で進捗管理しています。
また、抽出された全リスク項目を、定量的な「リスク影響度」「発生頻度」にマッピングして、網羅性のある「グループリスクマップ」を作成しています。その内容を半期ごとに見直すとともに対応策を協議し、必要に応じて委員長の判断で臨時委員会を開催します。
Q7.2019年度のグループ重要リスクと、その対策を教えてください。
リスクマネジメント委員会では、2018年度から2019年度にかけてのグループ重要リスクとして、「米国政府の不確実性(外交・通商・金融政策ほか)」「保護主義の潮流と通商問題」「EUの不確実性(BREXIT)」を選定しています。特に、米中貿易摩擦に起因する両国の制裁関税状況や、米中両国の動向、米国の国防権限法に始まる各種規制・制裁の発動とそれにともなうリスクに注視し、必要な対策を講じてきました。また、当社の主力市場であるEUでのBREXITを巡る不確実性が事業展開に及ぼす影響に対しては、想定し得る事態に備えた体制を事前に構築し、今後の動向に留意しながら適切に対処していく考えです。
さらに、昨今の本邦企業の経営上のリスク動向をみると、「海外子会社の不正リスク」「品質問題」「顧客情報の漏洩」「労働問題」「サイバーセキュリティ」なども重要なリスク管理項目として認識し、対処しています。
上記に加え、リスクマネジメント委員会では、ESGの観点も踏まえて中長期的な視点から「グループ経営上の主要リスク認識」を毎年レビューし、リスク要因ごとにグループリスクマップで管理しています。
また、切り口は異なりますが、当社では「次に起きる社会を想定したポジティブ・アクションにつながるリスクマネジメント活動」にも注力しています。例えば、「5G実用化の事業への影響」という課題に対して、将来のリスクを考えながら、先取りしたアクションを起こすことで、新たな付加価値活動や次のビジネス機会につなげていくことも全社的に検討しています。
なお、当社は「クライシス(危機管理)」については、迅速・適切に対処するためにクライシス発生時の報告ルールを設け、執行役や当社子会社役員などに周知しています。その報告ルールに沿って、世界各地で発生した災害事故、その他のクライシスに関する情報収集と対応を危機管理担当執行役が集中管理しています。
このように、収益に影響を及ぼす可能性のある多様なリスクを、短期・中長期の視点で適切にマネジメントすることによって、持続的な企業価値向上を目指しています。