ステークホルダーの信頼回復が最大の使命
この数年間、当社を取り巻く経営環境は非常に厳しく、さまざまな経営課題が山積しています。直近の2022年3月期の決算も売上高は9,114億円、前期比480億円の増収とはなったものの、のれんの減損影響約110億円など、約 200億円の一過性要因もあり、営業利益、親会社の所有者に帰属する当期利益はそれぞれ222億円、261億円の損失となり、2年連続の営業赤字という結果に終わりました。
このような厳しい状況下、2022年4月に私は当社の代表執行役社長兼CEO に就任しました。私の最大のミッションは、コニカミノルタが再び成長企業として羽ばたけるよう、グループ全体を力強く牽引していくことに他なりません。従業員の自信を取り戻し、同時に株主・投資家やお客様をはじめとするすべてのステークホルダーからの信頼の回復に努めていくことが、自分に課された最大の使命であると認識しています。その使命を果していくために、これまで当社が展開してきた施策の良い部分はもちろん継承していきますが、変える必要があると判断する部分については、勇気をもって変えていくつもりです。
今年5月の決算説明会において、私は業績サマリーの次に、2021年度に「できたこと」「できなかったこと」という総括を行いました。推進してきた戦略の成 果と残存課題を自分自身も客観的に認識していることをまず示し、「だから、これからはこうするのだ」という今後の方針説明につないでいくことで、ステークホルダーの皆様の理解と信頼を勝ち得ていきたいと考えています。
キャッシュ・フロー重視の経営を推進
2022年度は、2020年度から推進してきた中期経営計画「DX2022」の最終年度となりますが、すでに発表したとおり、内外の環境変化を踏まえて通期の連 結業績予想を「DX2022」の目標値から下方修正しました。「DX2022」の計数 目標については、センシング、材料・コンポーネント、ヘルスケア(メディカル イメージング)、産業印刷の各事業は引き続き目標達成を目指していきますが、それ以外の事業については実質的に目標達成を断念した形となり、グループ全体での計数目標(営業利益、営業利益率、営業キャッシュ・フロー、ROIC)はいずれも未達となる見込みです。
当社は今まで策定してきた中期経営計画において、外部環境の大きな変化による影響とは別に、社内的な要因によって達成できなかったことが度々ありました。このことは、改めて深く反省すべきであると私は思います。今後は機会 とリスクの両方を冷静に見極め、「やるべきこと/できること/できないこと」をしっかり区別して考え、やるべきことについては必要な能力の見極めと獲得を行ったうえで、従業員を含めたすべてのステークホルダーの皆様に本当に「コミット」できる、“等身大”の目標を掲げていく方針です。
また当社を再び成長軌道に乗せていくために、これまで以上に「キャッシュ・フローを重視した経営」を推し進めていく考えです。各事業におけるキャッシュ創出力の強化に努めると同時に、生み出したキャッシュを事業成長、企業価値の向上に最大限に活かせるよう、最適な資源配分を実行していきます。
「DX2022」において計数目標の達成は断念しましたが、基本戦略である2つのポートフォリオ転換、すなわち「オフィスプリンティング事業の顧客基盤を活用したデジタルワークプレイス事業への転換」と「計測・検査・診断領域での事業成長」という方針については、当然ながら変更はありません。まずは足下の業績回復を最優先課題としながらも、2025年度をゴールとした中期的視点でポートフォリオ転換に必要なアクションを着実に実行していく考えです。
安定収益事業のキャッシュ創出に努める
目指すポートフォリオ転換に向けて、足下での最大の課題と捉えているのは2021年度に収益性が著しく低下したオフィスプリンティング事業とプロダクションプリント事業を早期に立て直し、本来の「安定的にキャッシュを生み出せる事業」に戻すことです。
オフィスプリンティング事業の立て直しは、生産と販売の両面で進めていきます。ハードウエアへの需要そのものはコロナ禍による前年度の落ち込みから回復傾向にあるのですが、需要に応える生産が行えなかったことで、2021年度末の時点で約515億円の受注残を抱えました。生産が遅れた主な理由には、半導体などの部材の不足という外部要因と、2021年7月に発生したコニカミノルタサプライズ辰野工場における爆発事故によるトナー供給力低下の影響で生産が大きく遅滞したという内部要因があります。
その後、部材不足の問題は徐々に解消に向かっており、辰野工場も昨年11月に再稼働し、この4月から生産体制が戻っています。速やかに製造・出荷を進め受注残分をキャッシュ化するとともに、市場ニーズに応えられる生産体制を回復させ、売上・利益の拡大につなげていきます。また販売面においても、すべての営業活動を対面で行うのではなく、電話やメール、オンラインなどの非対面の営業活動を拡大するほか、AIを活用した効果的な顧客ターゲティングや提案書の自動生成などのデジタル化を進めることで、販売の効率化と高質化を進めていく方針です。こうしたDX活用により人財の最適配置を含めた構造見直しに着手しています。
一方、プロダクションプリント事業については、オフィスプリンティング事業よりも印刷需要の回復は早いことが確認できています。それはコロナ禍の経験によって、デジタル印刷のメリットが市場で改めて見直されているためです。商業印刷物のうちで大きな割合を占めるのがコンサートやセミナーなどイベントの案内チラシやポスター、資料などですが、コロナ禍に突入して以降、こうしたリアルのイベントは間際まで開催を決定できないケースが増えました。そうした状況のなかで、短期間で印刷が行え、一定の印刷部数が必要という制限もなく、安定した印刷品質を維持するための熟練工も必要としないこと、また、部材や紙の価格高騰などに対しても無駄な在庫を持たずに済み、損紙を出さないことなど、アナログ印刷に対するデジタル印刷の持つ数々のメリットが市場に再認識されたと見ています。このことから2022年度以降のプロダクションプリント事業は急速に回復に向かう見込みです。
事業ポートフォリオマネジメント
コア事業では成長領域への投資を強化
コア事業と位置づけるセンシング、機能材料、インクジェットコンポーネントの事業群については、各事業における成長領域への投資を引き続き確実に行っていきます。
例えばセンシング事業では、自動車などの外観計測の自動化・省人化や、非可視光領域を測定できるハイパースペクトルイメージング技術を活用したリサイクル・食品・製薬分野でのビジネスを推進します。さらに成長を加速させるための手段として投融資を活用したM&Aも検討していく方針です。
また機能材料については、ジャンルトップの液晶TVなどディスプレイ製品の偏光板向け位相差フィルムだけではなく、生産技術の強みを活かしたさまざまな機能性フィルムの展開により、ディスプレイ用光学フィルム領域でのシェア拡大を目指します。特に需要拡大が見込まれる大型TV向けフィルムについては、設備投資も含めて強化を図っていきます。
成長投資における「選択と集中」を推進
こうした成長投資と並行して投資分野の絞り込み、いわゆる「選択と集中」も進めていきます。限られた資本を最適に配分していくには、足し算だけなく引き算も重要です。事業単位だけでなく、プロジェクト単位でも、この基本姿勢を持つべきだと考えています。
この5、6年、当社グループはさまざまな領域で未来に向けた“種蒔き”を行ってきました。ただし、そのすべてが必ずしも順調に芽吹き、成長しているわけではありません。実際に2021年度は多額ののれん減損を出しており、効果的な成長投資を行っていくために、まずは現状を冷静に分析・整理することが重要であると改めて痛感しています。
当社は、事業ポートフォリオマネジメントにあたって、全事業を「成長性」と「収益性・資本効率」の2軸によってプロッティング(層別)し、「コア事業」「安定収益事業」「低収益事業」「戦略的新規事業」の4つに区分しています(→P12参照)。この区分に沿って、各事業の位置づけと課題をしっかりと把握したうえで、各事業の施策の実行力を強化していく方針です。
例えばプレシジョンメディシン事業は、市場のポテンシャルを活かし、競争力を高めるにはさらなる追加投資が必要と予想されることから、引き続き外部資本の活用を検討していきます。一方、2021年度に減損処理を発表したMOBOTIX社が属する画像IoTソリューション事業については、開発成果自体は出ており、例えば地震や洪水、崖崩れなどの自然災害対応の分野などで新たなニーズが見込めるとの考えから、他社との協業を強化し、収益化を目指していきます。
上記のようなM&A案件以外にも、当社グループでは新規事業の創出に向けた社内でのインキュベーションプロジェクトを数多く進めてきました。それらも含めて今後は成長投資の継続に関するステージゲートにおいて、プロジェクト担当者だけでなくコーポレート部門など第三者の厳しい目も入れることによって「次のプロセスに進めるか」を判断していく方針です。さらに一旦ステージゲートで決裁したものについても、2カ月ごとにCEOである私の目を通すことをルールづけました。従来よりもかなり厳しくしたこのチェックシステムによって、育成を続けるべきものは続け、止めるべきものは止めるというメリハリをつけた成長投資を実行していきます。
「イメージング技術」「ジャンルトップ戦略」「現場力」を強みに
当社の最大の強みは、カメラ・写真用フィルムを原点にした「イメージング技術」だと思います。当社はこのイメージング技術、すなわち「見えないものをみえる化する力」を、品質検査や診断、介護などさまざまな領域に応用・発展させ、商品やサービス、ソリューションとして社会に価値を提供してきました。経営ビジョンに「Imaging to the People」を掲げている理由もそこにあります。
イメージング技術を基盤に、さまざまな社会課題の解決につながる価値を届けていきたいという私たちの思いは不変です。今後のポートフォリオ転換においても、究極的には「人々の“みたい”に対して、自分たちには何ができるのか?」がストーリーの中心になっていくはずです。DXとの融合なども含めて引き続きイメージング技術を磨き上げ、新たな価値の創出を目指していきます。
また、経営統合以来推進してきた「ジャンルトップ戦略」も当社の強みといえるでしょう。当社グループの規模や体力を考えれば、すべての領域を制覇する「総合トップ」を狙うことには限界があります。そこで「成長が見込め、かつ自社に勝算のある領域」にターゲットを絞り、そこにリソースを集中させ、戦略的提携やM&Aも活用しながらトップポジションを獲得してきました。例えばA3カラー複合機、カラーデジタル印刷機、超音波診断装置、光源色計測器、VA- TACフィルムなど当社がトップシェアを誇る分野はすべてこの戦略の成果だといえます。ジャンルトップ戦略は、単に営業やプロモーションの強化によって“瞬間風速的”にトップシェアを獲ることではありません。そんなトップは決して長続きしません。開発から生産、営業・マーケティングまですべての部門の機能が一体になって、真に競争力のある製品を創出し、その価値をお客様にしっかりと伝え、さらに次のステージを見据えて「常にトップであり続ける」努力を怠らないことが重要です。ジャンルトップになることは、市場の主導権を握ることであり、価格コントロール力の強化も含めて企業の収益性向上につながります。業績が厳しい今こそ、改めてこのジャンルトップ戦略の重要性を意識し「全社最適」の観点で、ターゲットの選定と経営リソースの集中を進めていこうと考えています。
もう一つ、私が当社の強みだと感じているのは、危機や困難に直面した際に発揮される現場の対応力、「現場力」です。2年以上前から続く新型コロナウイルス感染症のまん延や、直近ではウクライナ情勢など、先行きの不透明性・不確実性が増すばかりの世の中ですが、有事の際に生じるさまざまな課題に即応して、それを収拾させていくスピードや臨機応変の対応力は、決して他社に負けていないと思います。この「現場力」によって、当社は過去何度も困難を乗り越えてきました。当社の企業文化・風土である「6つのバリュー」は、この現場力のバックボーンになっていると思います。6つのバリューは、グローバルの従業員約4万人が価値観を共有するための共通言語であり、この価値観が共有され、全世界の従業員が問題意識を同じくして事に当たれば、これからも変化や危機をしっかりと乗り越えていけると信じています。
上記のようなコニカミノルタの「強み」を、改めてグループ全体で再確認し、明確化していくことで、企業グループとしての求心力をもう一段高め、新たな成長軌道を目指して全社でベクトルを合わせて歩んでいきたいと思います。
マテリアリティを組み込んだ経営戦略を策定
今や全世界共通の課題となっている「サステナビリティ(持続可能性)」ですが、当社では2003年の統合以来、これを経営の中核に位置づけてきました。2020年には、10年後の2030年にあるべき「持続可能な社会」の姿を見据えて、社会・環境課題が当社に与える影響を機会とリスクの観点から評価し、そこからのバックキャスティングによって「今なすべきこと」を「5つのマテリアリティ(重要課題)」として特定しました。
現在の当社の各事業は、この5つのマテリアリティを意識した価値創造に取り組んでいます。例えば、インダストリー事業では、製造現場で熟練工の経験値に基づくスキルに依存していた検査工程を自動化・省人化することで熟練工の技術継承問題を解決すると同時に、最終製品の高品質化に貢献することで「働きがい向上および企業活性化」に寄与していますし、倉庫や工場での構内事故の予兆を検知して防止するサービスによって「社会における安全・安心の確保」に貢献しています。また、プロフェッショナルプリント事業では、適時・適量・適所での生産による輸送・保管・廃棄・中間材の低減により「気候変動への対応」と「有限な資源の有効利用」に寄与しています。さらに、ヘルスケア事業では個別化医療の実現と早期発見・早期診断による「健康で高い生活の質の実現」に寄与しています。
また、マテリアリティとして特定したさまざまな課題を、どのような事業戦略で中長期的に解決していくのか明確化することも重要です。そのためには事業部門も、これまで以上にサステナビリティについて本気で考え、取り組むことが必要だと考えています。この側面を強化するため、中長期経営戦略策定などを担う企画・戦略部門と事業部門が一体となって次期中期経営計画を策定し、企業の成長と持続可能な社会の両立を実現していきます。
自らの経営哲学のもと、「等身大」を貫く
私の経営者としての考え方の基礎には、2013年~2016年に米国の情報機器販売会社(Konica Minolta Business Solutions U.S.A., Inc.)のCEOを務めた時代の経験が大きく影響しています。前任者が定年を迎えたことから、49歳の私が抜擢され、赴任したのですが、同社は当時、複数のITサービス会社のM&Aにより8,000人まで規模が拡大し、管理の強化が必要とされているタイミングでした。このとき私は3つのルールを自分に課しました。第1は「決めること」。現地の最高責任者として最後の決断は自分がやる、ということです。第2に「人の話を最後まで聞くこと」。特にお客様と日々対峙している営業担当などの現場のスタッフが仕事を一番わかっているので、判断に迷った時は彼らの話をしっかり聞くことを心がけました。そして第3は「用意は周到に、話は簡潔に」。組織を動かしていくためには、いろいろなことを考えないといけませんが、最後はそれを皆にわかりやすく説明することが大切です。当時はこれらを忘れないよう紙に書いて机に貼り、折に触れて確認していました。
コニカミノルタのCEOとしても、この3つを常に心がけていくつもりです。経営トップとして責任をもって決断する。決める前には、周囲や現場の人々の話を徹底的に聞いて状況を把握する。そして決めたことを社内外に伝えていくときは、しっかり準備をした後に、わかりやすくかつ簡潔に話す。これらを肝に銘じていきます。
もう一つ私が信条としているのは、相手と「等身大」で対峙する、ということです。無理な背伸びやストレッチはしない。良いことも、悪いことも、きちんとステークホルダーの皆様にお伝えしていきます。2022年度の予算設定もこの観点で行いました。今年の新入社員たちにも話したことですが、仕事を成功させる大きなポイントは「長持ちする人間関係」を構築できるかどうかにかかっており、そのような関係を築いていくには、常に「等身大」の自分として相手に向き合い、理解を得ることが何よりも重要だと私は考えています。
これからもお客様はもちろん従業員、株主・投資家、取引先、地域の方々、すべてのステークホルダーの皆様に「等身大」で接し、皆様との対話を通して企業価値の向上に努めていきます。引き続き当社グループへのご理解、ご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。