ICT介護の教育で目指すもの

HitomeQ ケアサポートを活用した「ICT×介護」の講義を2019年度から実施

東京福祉専門学校では、2019年度から コニカミノルタICT介護実習室 を設置、『自立支援介護』という科目の中にケアサポートを活用した「ICT介護」の講義を取り入れ、次世代の介護人材の育成を目指しています。“データを活用して現場をマネジメントする ケアディレクター という人材・職能を育てていく”コニカミノルタの構想と、高橋学部長の志向する未来の介護福祉士像が合致すると共感いただき、取り組みが実現しました。

今回は、この取り組みを推進された東京福祉専門学校 高橋学部長 に
介護福祉士を養成する学校の現状や「ICT介護」の講義についての感想、今後について語っていただきました。

1.介護福祉士養成校の現状

介護分野・領域において、エビデンスに基づいた質の高い介護サービスを確立していくことが重視されています。厚生労働省では「科学的裏付けに基づく介護に係る検討会」が開催されており、2020年度から科学的介護の実現を目指したデータベース「CHASE」を立ち上げ、介護のビッグデータ収集・本格稼働を目指す方針を固めています。エビデンスに基づいた介護サービスの実践により、自立支援に資する効果的なサービス提供と介護現場の負担軽減(効率化)が実現できると期待されます。
効率化-人材確保という点から考えると現在、現場での人材難と同様に介護福祉士の養成校は全国で375校。入学者の合計数が7,000人弱であり養成校総定員への入学者充足率は48.5%(2019年4月入学生)と公表されています。介護福祉士養成学科の募集停止や廃科もあり、将来の介護現場を担う介護福祉士を養成する現場でも、入学者数が減り続けています。

深刻な人材不足の中で、若年層に介護という職業を選択してもらうことは非常に重要なことだと思います。しかし「介護は大変な仕事」というイメージがあり、本人ではなく周囲からの反対も多く、人材の確保が非常に難しくなっています。
しかし養成校で多くの進学希望者と接していると、「介護という仕事にマイナスイメージを持っていない層」は確実に存在しています。「自分の大好きなおじいちゃんおばあちゃんを笑顔にしてくれた介護福祉士」への憧れがあります。
「介護という仕事のイメージを変えよう」ということは一専門学校でできるようなものではありませんので、東京福祉専門学校ではこれから介護を学びたいという方々に対し、教育サービスを提供している学校として「ワクワクする気持ちを掻き立てる」教育ができないかと模索をしておりました。
そこで着目したのが「介護ロボット・ICTの活用」です。ICTを活用した介護を学び、将来の介護現場に対して前向きなチャレンジを続けられる学生を育てたいと考えました。

2.これからの介護福祉士に求められるもの

平成27年に厚生労働省社会・援護局福祉基盤課から出されている介護人材確保の総合的・計画的な推進の中で、「まんじゅう型」から「富士山型」への転換がうたわれています。当然ながら国家資格である介護福祉士は、専門職として高い知識や専門性が求められています。さらに「介護人材に求められる機能の明確化とキャリアパスの実現に向けて」という報告書には、具体的な方向性もまとめられています。養成校にはカリキュラム改正が求められており対応をしているさなかですが、求められているレベルまで教育を引き上げていくには「業界とともに育てる」ことを抜きにして実現は難しいでしょう。

3.ICT介護をカリキュラムに取り入れた理由

そんな時に、コニカミノルタ社様が取り組まれている「ケア・フィロソフィー・パートナーズ・カンファレンス」(CPPC)というソーシャル企業連携の取り組みを知ることができました。その中でICTを活用して、介護現場のワークフロー変革を目指し、少ない人手でも良質な介護が提供できるようなシステム、そして人材育成を見据えていらっしゃることに感銘を受けました。さらには東京福祉専門学校のチャレンジとして新たな介護人材を育成したいという考えに共感をしてくださったことで、『ICT×介護で次世代の介護福祉士を養成する』というミッションの元、連携授業がスタートいたしました。

4.連携授業の中で見えてきたもの

2019年はICTを学ぶ授業を通して「マネジメントの視点」を養うことを狙い、1回の施設見学を含む、計7回の講義を行いました。
講義はICT介護の基礎知識といったインプットから、実際に施設内で行われている業務分析のワークショップなど様々な形で行い、ICT介護についての理解を深めていきました。学生たちが学ぶ過程で私が感じたことは、「介護福祉士としてのプライド」です。養成校の学生ですから、介護とは何か、介護福祉士としての意識についてはこれまでの授業や実習で刷り込まれてきています。講義の初期段階ではそれがどこか邪魔をして、ICTに関して懐疑的な授業の感想もありました。それが変わってきたのは「ワークフロー変革」を学ぶ段階に来た時でした。特に「業務分析」について学んだことで、「ロボットやICTはより良い介護を行うためのツールだ」と気づけたのではないでしょうか。

業務分析から改善点を見つけ、ロボットやICTを活用しながら効率化を進めていく。ともすると目的をはき違え、ロボットやICTの活用ありきで考えると進むべきことも進まない。あくまでもより良い介護を提供することが目的であり、そのための課題を見つけクリアしていく。そこへ必要であればロボットやICTを導入するんだと、介護現場に出る前の学生の段階で気づけたことは今後の将来に大きく役立つことだと確信しています。このように東京福祉専門学校では「ICTの活用を学ぶことで、マネジメントの視点をもった介護福祉士になる」ことを目指しています。

5.今後について

養成校の立場として「業界とともに育てる」をさらに推進していくことが必要です。養成校の教育は在学中にとどまらず卒業後のキャリア形成支援にも続きます。ご存知の通り介護事業所様にとっては、人材の意欲・能力に応じてキャリアアップを図り、キャリアに応じた役割を担うことができる仕組みを構築することが求められています。2019年度から始めたICT介護教育を、在校生にとどまらず卒後教育としても展開していくことで本校としてもキャリア支援への貢献ができると思います。
つまりこれからの産学連携の在り方として、養成校入学前の介護人材確保から在学中の教育はもちろん、卒業後のキャリア形成支援まで一貫して行うことでこそ、求められる介護福祉士像の育成実現につながるのではないでしょうか。


学校法人滋慶学園 東京福祉専門学校 ケアワーク学部 学部長 高橋 利明(タカハシ トシアキ)氏

介護福祉士/社会福祉士
特別養護老人ホーム介護職員、介護主任を経て、2003年より滋慶学園に入職。

校舎内に地域住民の交流・福祉拠点となるなごみの家(江戸川区からの委託事業)を併設し、即戦力となる介護福祉士の養成に取り組んでいる。
第1回スマート介護士試験においてエキスパートを取得。