社外取締役と投資家の対話

コニカミノルタは、社会課題の解決と企業成長を両立していくために、ステークホルダーの皆様との対話に力を注いでいます。その一環として、今回、3名の機関投資家の方々をお招きし、当社の成長戦略、構造改革、サステナビリティ経営、ガバナンスなどに関して社外取締役および取締役会室担当執行役と直接意見を交換していただきました。

コニカミノルタ

社外取締役
取締役会議長

程 近智

社外取締役
コーポレート
ガバナンス委員会
委員長

佐久間 総一

執行役 取締役会室
経営監査担当

村山 明子

(ファシリテーター)

投資家

りそなアセット
マネジメント
株式会社
責任投資部

松原 稔 氏

三井住友トラスト・
アセット
マネジメント
株式会社
リサーチ運用部

久保田 悟 氏

野村アセット
マネジメント
株式会社
責任投資調査部

皆越 まどか 氏

成長軌道への回帰に向けて 中期経営計画初年度は計画値を達成し、過去10年からの変節点に

村山
当社では、中期経営計画(2023-2025)をスタートさせて1年が経過しました。まず、社外取締役として1年目をどのように評価されていますか。
過去約10年間の中期経営計画には、それぞれ「TRANSFORM2016」「SHINKA 2019」「DX2022」と表題が付けられていましたが、今回の計画にはありません。それは、これまでの中期経営計画に対して結果を出せなかったことへの反省が出発点になっているからです。そんな「過去からの決別」を掲げてスタートした今回の中期経営計画は、「ベストな条件だけで立案せず、期中にリスクが顕在化しても他で吸収しながら、全体として頑張れば達成可能な計画」としています。初年度である2023年度は、期初の目標計画値をクリアし、黒字化することができました。これまで、目標に対して未達が続きましたが、今回しっかり達成できたことで、過去10年に対する変節点になったと思います。
村山
2024年度はどのような取り組みに力を注いでいく方針でしょうか。
引き続き中期経営計画の大きなテーマである「事業の選択と集中」の完遂を目指します。また、4月に中期経営計画の進捗説明会で発表した追加施策の「グローバル構造改革」の実行も重要です。取締役会では、これら改革の目標値をしっかり達成できるようモニタリングしていきます。さらには、次の中期経営計画も視野に入れ、イノベーションから利益を生む会社にするために必要な要素を、企業文化や無形資産の観点からも本格的に議論していこうと考えています。
久保田
今の中期経営計画の目標は通過点だと思いますので、計画の実行と並行して次の中期経営計画についても議論していただきたいと思います。そこで、今後の成長戦略に関する質問なのですが、コニカミノルタの「ジャンルトップ戦略」について社外取締役の皆さんはどのように評価されているのでしょうか。
佐久間
ジャンルトップであること自体はとても良いことなのですが、収益を確保できるかどうかが重要です。当社のジャンルトップの中には、シェアはトップでも収益性を一層改善させる余地のある製品もあります。この点については、取締役に就任して以降、疑問に感じており、取締役会でも指摘しています。
久保田
社外から見ていて「ジャンルトップ戦略」は過去の成功体験に近いのではないかと感じます。コニカミノルタ発足以来、中核に据えてきた戦略を変えるのは難しいかもしれませんが、うまく戦略をアップデートしていただければと期待しています。

執行力を強化し、全体最適の視点から事業をコントロール

久保田
成長戦略を確実に実行していくために、どのような課題があるとお考えですか。
佐久間
「執行力の強化」が必要だと思います。当社は、メカニカルとケミカルの両分野にわたって優れた技術を持つ世界でも数少ない会社です。一方で、技術があってさまざまなことができてしまうがために、いわゆる“器用貧乏”に陥って収益性や将来性に課題のある事業を抱えてしまう恐れもあります。“技術的に優れているかどうか”と、“儲かるかどうか”はまったく別の話ですからね。それを適切にコントロールする強い執行力が必要なのです。
現場にとっては、新しいイノベーションに挑戦できる魅力的な会社ではあると思うのですが、事業化するのかしないのか、開発を止めるのか止めないのかといった判断については、まだまだ緩さがあるのではないかと見ています。
佐久間
特徴ある技術・製品を持った会社が統合して成立した経緯もあって、事業部の力が非常に強いのも当社の特徴ですが、コーポレート部門が横串を刺して全体最適の観点からコントロールをしていく力が弱いことも課題です。
村山
そうした課題認識を踏まえて、2024年4月に執行体制を変更し、「情報機器事業」「インダストリー事業」「画像ソリューション事業」の3事業ごとに管掌執行役を置く仕組みとしました。事業部は個別最適で事業を推進していくため、事業管掌執行役は各事業部とコーポレート部門の間に入り、事業のベクトルが全体最適に向かうようコントロールする役割を担います。
佐久間
また、執行力を強化するためには、ある種の“嫌われ役”が必要になります。事業部から上がってきた方針や要望などに対し、時には冷徹に却下していく必要もありますからね。そうした役割の人が当社にはまだ少ないと感じており、執行側に指摘しています。
久保田
通常はCFOがその役割を担うのではないでしょうか。各事業部門から嫌われたり恐れられたりしても、計数面から厳しく見ていかなければならない立場ですから。
佐久間
もちろんCFOは、経営の高い次元で“嫌われ役”を担う必要があります。けれども、取締役会や経営会議などに議案が上がる前にもいろいろな意思決定のプロセスがあるので、その節目、節目においても嫌われることを厭わずに、CFO以外にも厳しい意見を呈する人が必要です。そうした人財をもっと育成する必要があると考えています。

過去の教訓を活かし、投資基準とモニタリングの仕組みをアップデート

皆越
ところで、過去の大型投資の経験を踏まえて、御社では投資基準やモニタリング体制などをアップデートしてきたのでしょうか。
はい。過去と同じ轍を踏むことのないように、投資評価ルールを改定し、投資判断、存続・撤退検討プロセスを厳格化するとともに、そのためのクライテリアなども定めました。過去の大型投資の意思決定では、「(将来の成長分野は)ここだ!」という執行の思いが少し強く出過ぎたのだと思います。そうした教訓も踏まえて、投資判断やモニタリングの仕組みをアップデートしました。
佐久間
私が取締役に就任してからの4年間は大規模な投資を行う機会がありませんでしたが、2025年度以降の成長基盤の確立に向けて、これから大きな投資案件が出てくるはずです。すべての投資が必ずしも成功するとは限りませんが、仮に計画通りに進まなかった場合でも、決して大きな減損などを計上することがないよう、投資判断を厳格化するとともに、例えば事前に「プランB」を用意しておくなど、地に足の着いた意思決定ができるように準備していきたいと考えています。

中長期の視点で、コニカミノルタの変革を進める

松原
お話をうかがって、御社が現状の課題を認識し、さまざまな経営改革に取り組んでいることが理解できました。取締役会として、これらの取り組みをどのような時間軸で進めていくお考えでしょうか。
構造改革、成長戦略、そして成長を支える無形資産と企業文化の変革は、2024年度の取締役会の大きな議題ですが、実行の時間軸はそれぞれ異なります。構造改革については、この1年で完遂する予定です。もちろん、一過性の取り組みで終わってはいけないので、例えば生産性向上についても、目標のKPIを達成すると同時に、現場が自ら改善・改革を継続できるような仕組みを取り入れ、取締役会としてモニタリングしたいと考えています。一方、次期中期経営計画を含めた成長戦略は3~5年先を見据えて議論しています。さらに、無形資産と企業文化を変革するには、5年、10年といった時間軸で取り組んでいく必要があると考えています。
松原
コニカミノルタの経営のスピードについてどのように評価されていますか。
社外取締役の間でも「スピード感が不足している」という意見が多いですね。
佐久間
それでも最近は、難しい環境の中、米国Invicro社の売却を迅速に実行し、コミットメントを達成するなど、執行のスピードがかなり改善されてきたのではないかと私は感じています。

企業活力を測るバロメーターとして、従業員エンゲージメントの継続的な向上を

松原
企業のカルチャ―を変えていくには、従業員エンゲージメント、とくに「この会社で働く重要性」や「働く喜び」といった内的動機を高めることが重要になると考えています。近年、業績的には厳しい状況が続きましたが、エンゲージメントスコアはどのように推移しているのでしょうか。
村山
エンゲージメントスコアについては、外部の調査機関に依頼してグローバルのテック企業をベンチマーク対象にしてモニタリングしています。対象にハイスコアの企業が多いため、まだ下位グループに位置していますが、スコア自体は前年度より向上しています。
佐久間
業績低迷が続いたにも関わらず、従業員エンゲージメントのレベルは決して悪くありません。実際に私は執行側が毎年実施している「価値創造フォーラム」などに参加して、その場で事業部の人たちと話した時も、皆さんとても楽しそうに仕事をしていると感じました。
楽しく仕事をするのは大事なことですが、逆の見方をすれば現場に危機感がきちんと伝わっていないのではないかという不安も感じます。2024年度からは追加施策としてグローバル構造改革を実施しますので、これらの影響も含めてエンゲージメントが今後どのように推移していくのか注視していきます。
村山
従業員エンゲージメントは、グループ全体の活力を測るバロメーターでもあり、会社としても課題意識を持って継続的に向上させていきたいと考えています。その一環として、執行役の中期株式報酬の評価指標の一つにエンゲージメントスコアを組み込んでいます。

サステナビリティ経営の推進 サステナビリティを成長戦略に据え、事業成長につなげていく

松原
サステナビリティの分野では、御社は先進企業の一社であり、私自身、注目してきました。しかし、このところ御社の業績は伸び悩んでいます。サステナビリティへの取り組みと企業成長の両立についてどのようにお考えでしょうか。
佐久間
おっしゃる通り、その両立こそが最大の課題です。当社は世界のサステナビリティ関連のガイドラインやフレームワークにいち早く対応しているほか、環境側面においては「カーボンマイナス」といった取り組みを表明するなど、サステナビリティの分野において他社をリードしてきました。今後はそうしたサステナビリティの取り組みを事業の競争力に変えて、しっかりと稼げるようにすることが重要です。
そのためには、サステナビリティを成長戦略の真ん中に据えて、切り離すことのできない一つの戦略として進めていかなければなりません。例えば、将来の成長の芽として、再生プラスチックやバイオものづくりに関する分野にも注力していますが、これらの収益性を高めて事業成長につなげていく必要があります。
久保田
御社の場合、事業同様にサステナビリティについてもさまざまなことができてしまうので、本当にやるべきことは何なのか、どの分野なら事業の差別化につながるのか、といった視点から、もっとターゲットを絞り込んでいくと、戦略がわかりやすくなりますし、結果にもつながるのではないでしょうか。
松原
サステナビリティとビジネスの関係を時間軸で見ると、サステナビリティを強化しても、それがすぐに業績に反映されることはなく、後からじわじわと効果が現れてくるものだと考えています。それだけに、サステナビリティがどのように成長戦略に組み込まれ、将来的に事業成長や企業価値向上につながっていくのかを、資本市場にわかりやすく説明していくことが非常に重要だと考えています。
佐久間
当社の場合、欧州での事業比率が高いのですが、ご存知のように欧州においてサステナビリティ課題への対応は、もはや努力目標の範疇を超えて、法規制へと移行しつつあります。サステナビリティがコンプライアンスマターとなり、法務部門が対応しなければならない要素も増えています。
そうしたアカウンタビリティの問題や法務的な対応も視野に入れながら、当社の次期中期経営計画でもサステナビリティを成長戦略の中核に位置づけて推進していきたいと考えています。取締役会においても重要なアジェンダとして議論していきます。

持続的な成長に向けたコーポレートガバナンスの進化 社外取締役を過半数、社外取締役を取締役会議長とするほか、コーポレートガバナンス委員会を設置することで、ガバナンスレベルが向上

皆越
2023年度から新たにコーポレートガバナンス委員会を設置されましたが、そのねらいを教えていただけますか。
佐久間
当社は、2003年6月に委員会等設置会社(現在の指名委員会等設置会社)へ移行したのをはじめ、日本企業として先進的なコーポレートガバナンス体制を構築してきました。それにも関わらず、2019年度から4期連続で当期利益が赤字になるなど、業績低迷が続いてきました。そこで、これまでの体制だけでは対応できなかった課題を解決し、きちんと結果につながるガバナンスを実現するために新しい委員会を設けたのです。
皆越
ガバナンスは先進的なのに、業績がともなわない理由は何だと分析されていますか。
佐久間
直接の大きな原因は将来に向けた投資の失敗です。身の丈を超える大きな投資をし、当初想定した期間内での投資回収が困難と判断した結果、大きな減損損失を計上しました。結果から見れば、ガバナンスにも問題があったかもしれません。
皆越
具体的にはどのような問題があったのでしょうか。
佐久間
一つは取締役会の構成です。2022年度からは社外取締役が過半数になりましたが、過去の大型投資の実行当時は社外取締役が少数派でした。そのため、株主目線から投資の是非を検討するといった機能がうまく働かなかったのではないかと考えています。
皆越
社外取締役が過半数になってからはどんな変化がありましたか。
トップの信任も含めた重要な意思決定が、社外取締役の賛成だけで成立する体制になったのですから、これは非常に大きな変化です。社外取締役を納得させて、同意を得なければ重要事項が前に進まない仕組みとなったことで、結果に対するコミットや責任追及において、監督と執行を分離したガバナンスは確実に強化されてきています。
佐久間
これから当社がしっかり結果を出していくためには、そうした執行力の強化も不可欠の課題です。実際にコーポレートガバナンス委員会においても、初年度の重要テーマとして議論を重ねてきました。それに加え、同委員会では取締役会と各委員会の実効性・透明性の確保についても議論し、取締役会議長の選定プロセスを明文化して開示しています。
さらに社外取締役の在任期間の基準についても議論し、これまでの4年から6年に伸ばすことを決定しました。社外取締役として重要な意思決定をするためには会社の本質課題を理解している必要がありますが、その責任を十分に果たすには4年では短いと判断したからです。
佐久間
コーポレートガバナンス委員会では、2024年度も執行力のさらなる強化をはじめ、2025年度以降の成長戦略実行を見据えたガバナンス体制のあり方について議論していく予定です。

議案の事前説明や社外取締役ミーティングの充実で、効率的な取締役会運営をサポート

松原
取締役会での議論を活性化させ、ガバナンスの実効性を高めるためには、事務局のサポートが非常に重要になると思います。御社ではどのような取り組みに力を入れているのでしょうか。
村山
従来は対象議題を限定し不定期で報告者もしくは提案者自らが実施していた事前説明を、2023年9月からは毎月、社外取締役に対し個別に時間を設けて事務局が実施しています。議題設定の背景やねらい、当日の論点を事前にお伝えし、その場で疑問などがあればできる範囲でお答えしています。また、社外取締役からの意見・要請事項を執行にフィードバックすることで、本番の会議までに論点の整理が進み、より効率的な議論や会議運営ができていると思います。
松原
社外取締役だけでディスカッションする機会はどのくらいありますか。
村山
程さんが取締役会議長に就任した2022年6月以降は、取締役会の開催に合わせて毎回実施しており、以前からあった枠組みではありましたが有効活用が進んでいます。
取締役会としても事務局によるサポートの重要性は認識しており、取締役会室の人財を増員して機能強化を図ってきました。事前説明の充実やミーティングの機会が増えたことで事業に関する理解度も深まり、社外取締役の皆さんもパワーアップしてきたと感じています。
村山
事務局としても引き続き取締役会や各委員会と力を合わせて、当社のコーポレートガバナンスを継続的に進化させ、企業価値の向上につなげていきたいと考えています。皆様、本日はお忙しいなか、貴重なご意見ご指摘を賜り、誠にありがとうございました。

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  • 中期経営計画(2023-2025)
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ガバナンス (PDF:1.8MB)

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