CEOメッセージ
収益性改善と財務基盤の強化を推進し、
「持続的な成長」への基盤を
構築していきます。
取締役 代表執行役社長 兼 CEO
大幸 利充
中期経営計画初年度の振り返り5期ぶりに黒字化を達成し、
信頼回復への第一歩を踏み出す
2022年4月に社長に就任した私に課せられた最大の使命は、2019年度から続いた赤字決算の厳しい状況を一刻も早く打開することでした。前中期経営計画「DX2022」の最終年度であった2022年度には、課題を将来に先送りすることのないように、過去の大型買収による「のれん」の大幅な減損損失を計上しました。この2022年度を、当社が「過去からの決別」を果たし、新たな持続的成長への軌道を描いていくためのフェーズ1と位置づけています。
2023年度からスタートした中期経営計画(2023-2025)では、「等身大の経営」の考えのもと、コミットした目標を確実に達成することにより、ステークホルダーの皆様からの信頼回復を目指しています。初年度である2023年度において連結売上高は過去最高の1兆1,599億円となりました。営業利益は260億円、親会社の所有者に帰属する当期利益は45億円となり、黒字化を達成しました。期初の目標計画値を超え、信頼回復に向けた第一歩を踏み出すことができました。
また、営業キャッシュ・フローの増加によってフリー・キャッシュ・フローも前年度から大幅に改善しました。
ただし、事業別の内訳を見ると順調に推移した事業がある一方で、計画通りの結果が出なかった事業が存在するのも事実です。信頼回復への歩みをより確かなものにするためにも、引き続き市況の変化に対応した事業管理体制を強化していきたいと考えています。
2022年度 | 2023年度 | 前年比 | |
---|---|---|---|
売上高 | 11,303 | 11,599 | 2.6% |
事業貢献利益 | 297 | 260 | -12.5% |
営業利益 | -951 | 260 | ― |
親会社の所有者に帰属する当期利益 | -1,031 | 45 | ― |
フリー・キャッシュ・フロー | -241 | 388 | ― |
※事業貢献利益:売上高から売上原価、販管費及び一般管理費を差し引いた利益。当社独自の利益指標
中期経営計画の位置付け
※デジタルワークプレイス事業およびプロフェッショナルプリント事業を管理する社内組織の名称
「事業の選択と集中」の加速と「グローバル構造改革」の実行「非重点事業」と「方向転換事業」の
改革に目途をつける
中期経営計画では、基本戦略として「事業収益力の強化」「収益基盤強化のための構造改革」「事業管理体制の強化」の3つを推進しています。これらの戦略のもと、2023~2024年度は、フェーズ2として事業収益力の強化に向けた「事業の選択と集中」を徹底的に行い、そしてフェーズ3として2025年度末までに「成長基盤の確立」を目指します。
本中期経営計画では全事業を戦略上の位置づけとして「強化事業」「収益堅守事業」「非重点事業」「方向転換事業」の4つに分け、それぞれの事業に対する期待と役割をより明確にしました。「事業の選択と集中」を完遂するためには、「非重点事業」と「方向転換事業」の改革に目途をつけることが不可欠です。
「非重点事業」については、その市場の成長性や事業の社会的価値などを考慮しつつ、ベストオーナー視点から第三者資本の活用を検討・実行しています。2024年4月には、プレシジョンメディション事業において創薬支援サービスを提供する米国子会社Invicro社の持分譲渡を実行しました。さらに遺伝子検査サービスを提供するAmbry社についても、第三者資本の活用に関する積極的な検討を進めています。
一方、「方向転換事業」については、事業や地域ごとに成長性や経営状況などを精査し、撤退や第三者資本の活用も含めた事業内の選択と集中を実行し、成長をけん引する事業として変革させます。例えば、DW-DX事業のなかには、お客様から支持され、すでに収益化できている事業やサービスもあるため、地域・商材ごとに事業成長や収益貢献が見込めるかどうかを慎重に見極めてきました。2024年度はこれに基づく施策を実行し、持続的成長が可能な事業への転換を図ります。
これらの取り組みにより、2023年度の「非重点事業」「方向転換事業」の赤字は、前年度に比べて約35億円縮小しました。2024年度も引き続き「事業の選択と集中」に注力し、業績をさらに大きく改善していく予定です。
「グローバル構造改革」を実行し、
グループの生産性向上を図る
2024年度は「事業の選択と集中」とともに、収益基盤強化に向けた追加の施策として「グローバル構造改革」を実行します。当社グループは、ステークホルダーの皆様から「同業他社に比べて従業員一人当たりの売上高や利益水準が低い」とのご指摘を受けてきました。これは、インフレ等で相対的に人件費の高い欧米での事業比率が大きい当社の事業構造が一因でもあり、容易に解決できる課題ではありません。しかし、この状況を放置すれば数年後には人員最適化がさらに難しくなる恐れもあります。最適なタイミングはいつなのか、いろいろと自問自答した末に、この問題についても先送りすることなく今着手すべきと判断しました。
具体的には、生産性・効率性の障害を特定し、業務プロセスの見直しや生成AIなどの活用による業務効率化や、人的資本への教育投資を進めると同時に、適材・適所の人財配置を進め、グループ全体で人員最適化を図ります。これらにより、2025年度における当初計画に対し、グローバルで約2,400人規模(非正規従業員を含む)の削減を2024年度中に実施する予定です。これにともない、2024年度は一過性の費用を約200億円計上します。2024年度は約50億円、2025年度は約150億円の利益を押し上げる効果が出る見込みです。この構造改革によって、一人当たりの生産性が高い組織へと体質改善を図り、2025年度からは「成長基盤の確立」に全力を注ぎます。
「成長基盤の確立」に向けてインダストリー事業を中長期の成長ドライバーに
「強化事業」のなかで最大の成長ドライバーと位置づけているのがインダストリー事業です。同事業は、中規模で安定した市場を有する領域をターゲットに設定し、高いシェアと収益率を実現しています。足元の市場環境においては、顧客の設備投資の遅れや、ディスプレイなどの市況悪化、およびそれにともなう機能材料の製品開発の遅れなどにより、当初の計画値を下回る結果となっていますが、2025年度以降の中長期的な成長が見込まれる事業であることに変わりありません。
インダストリー事業では、これまでセンシングや機能材料、IJコンポーネントなどのビジネスユニット単位で事業を展開してきましたが、今後はそれぞれのビジネスユニットの強みを掛け合せて新たな顧客価値を生み出し、ユニット単独では難しいビジネス機会の創出を事業横断で実現していくことが重要になります。各ユニットで構築してきた顧客との強固な関係や、技術資産をインダストリー事業全体で最大限に活用し、ディスプレイ、モビリティ、半導体製造装置の注力分野において、お客様のモノづくりバリューチェーンにより密接した事業開発を行い、事業の中長期かつ安定的な成長を実現していきたいと考えています。
なお、インダストリー事業に加え、デジタル印刷機の市場成長を見込むプロフェッショナルプリント事業、世界で当社のみが展開しているX線動態解析システムの需要や、医療の高度化・効率化に向け画像/AI/IT技術を活用した医療DXニーズが増加するヘルスケア事業を中心とした「強化事業」の拡大に向け、技術開発を強化していきます。また、研究開発投資の比率を引き上げ、コア技術を活かした競争力の高い製品を生み出していきます。
構造改革や協業を推進してオフィス事業の利益・キャッシュ創出力を強化
オフィス事業は「収益堅守事業」と位置づけ、安定的な利益の確保とキャッシュの創出に注力しています。リモートワークの普及やペーパーレスの進展により、2023年度はオフィスでのプリント量の減少は想定の範囲内であり、今のところ、中期経営計画で想定した以上にプリント量が減少する新たな要素は見当たりません。
こうした市場環境のなか、当社はOne Rate※契約の拡大や徹底した生産コスト削減などの成果もあって、2023年度は期初の計画を超過する利益を計上しました。すでに中期経営計画を上回るペースで収益力は向上していますが、今後もAIを活用した販売・サービスの効率化などにより、さらなる収益力強化を図ります。
また、2024年4月、富士フイルムビジネスイノベーション株式会社との複合機・オフィス向けプリンター・プロダクションプリンター事業に関する業務提携を発表しました。オフィス向けプリンターは長期的には市場の縮小傾向が想定されるため、投資を効率化していく必要があります。これまでも自社単独で効率化を進めてきましたが、より大きな効果を生み出していくために、他社との協業を積極的に推進していくことを判断しました。まずは、原材料・部品調達の連携を図る合弁会社の設立を決定し、投資の効率化や商品の安定供給体制の構築を進めます。また、今後、対象業務を拡げていく協議を進めていきます。
※One Rate:毎月変動する従来の課金方法ではなく、定額の課金をする当社独自のモデル
中期経営計画の経営目標達成に向けて2024年度中に経営改革を完遂し、
中期経営計画の達成を目指す
2024年度は、「事業の選択と集中」と「グローバル構造改革」を推進し、2025年度からの成長回帰への橋渡しとなる重要な年と考えています。事業貢献利益は増加する見込みですが、「事業の選択と集中」や「グローバル構造改革」を確実に実行するために一時的な費用の計上が必要であり、その結果営業利益は減益となり、親会社の所有者に帰属する当期利益はブレイクイーブンを見込んでいます。このため、2024年度は無配の計画とさせていただきます。また、今後の本格的な金利上昇に備えて有利子負債の圧縮を優先させることが、その後の利益改善に確実につながると考えています。今は歯を食いしばって財務体質の改善に注力し、2025年度以降、事業貢献利益だけでなく、営業利益や当期利益についても持続的かつ安定的な成長軌道に乗せ、企業価値を向上させることを目指します。収益改善にともない、株主様への還元を図っていく方針です。
また、ROEの改善は中期経営計画における最も優先順位の高い課題の一つです。2025年度に、親会社の所有者に帰属する当期利益率を2.5%以上に改善し、総資産回転率は1.0、財務レバレッジが2倍程度のバランスの取れた財務基盤を構築することによってROE5%以上を目指します。もちろんこの5%は最低限の目標数値であり、その後も引き続き利益成長と資産効率の向上に努め、資本市場が期待するROE8%以上の早期達成を目指します。
これらの目標達成への“特効薬”は存在しません。まず2024年度に「事業の選択と集中」と「グローバル構造改革」を完遂して財務体質を改善・強化することが必須であり、そのうえで必要な成長投資を実施し、中長期的かつ持続的な事業成長に向けた事業基盤を構築していきます。
業務計画
※1非重点事業の非連結化後の売上高
コーポレートガバナンスの強化より実効性の高いガバナンス体制を追求
当社は、2003年の設立時から日本企業でいち早く委員会等設置会社(現在の指名委員会等設置会社)を採用してきました。2022年には、取締役の過半数を独立社外取締役とし、議長にも独立社外取締役を任命するなど、コーポレートガバナンスの進化を図ってきました。さらに取締役会の実効性向上に資する議論の場として、2023年にはコーポレートガバナンス委員会を設置しました。
この体制で2年間経営を行ってきましたが、それ以前と比べて明らかに社外取締役の目線が強くなり、当社設立以来、最も取締役会の機能が発揮されていると感じています。執行側の提案に対して、社外取締役から意見を受け、社外取締役同士も含めた多様な議論を深めたうえで進めています。
また、重要事項について議論する執行側の役員会議は、これまで執行役・執行役員合わせて30名以上で開催されていたため、一人ひとりの発言機会が限られていました。2024年4月からは会社法上定められた執行役13名だけで議論する体制に変えました。その結果、参加者全員が本音で話し合える環境となり、議論が格段に深まりました。
今後、業績を上げることにより、現在のガバナンス形態が当社に適していることを示していきたいと思います。
サステナビリティ経営の推進お客様の「みたい」に応えて新たな価値を創造することが、当社の存在意義
当社は、経営理念「新しい価値の創造」のもと、2030年を見据えた経営ビジョン「Imaging to the People」を掲げています。これは当社の原点であり強みでもあるイメージング技術を通じてお客様のさまざまな「みたい」を実現し、社会と人々の持続的成長に貢献し、進化し続けるイノベーション企業である当社の存在意義を表したものです。
当社では、このビジョンの具現化に向けて、2020年に設定した5つのマテリアリティ(重要課題)を軸に、事業を通じた社会課題の解決を目指しています。そのなかでも当社の事業成長に直結する重要課題としてとくに注力しているのが「気候変動への対応」と「有限な資源の有効利用」です。気候変動への対応では「2025年度のカーボンマイナス※1」を、有限な資源の有効利用では「2050年の地球資源※2使用ゼロ」を目指します。このような先進的な方針に基づいた当社の取り組みは、外部機関からも高く評価されてきました。一方で一部の機関投資家の方々からは、社会課題解決に向けた取り組みがいかに事業収益に結びつくかを示すことを求められています。そうしたステークホルダーの期待に応え、社会課題解決が持続的成長の原動力となることを示していくことが、当社にとっての今後の課題だと考えています。
その点で将来の成長の芽としても期待しているのが、当社の技術資産も活用進化させながら、脱炭素につながる分野です。
例えば当社は、使用済みプラスチックから高品質の再生プラスチック材をつくる技術を有しており、10年以上前から複合機に再生材を使用しています。また、フィンランド子会社のSpecim社が展開するハイパースペクトルカメラは、廃プラスチックの選別用途でNo.1の実績を持つ製品です。これらの材料技術、センシング技術に加え、今後はAI技術も有効活用しながら、再生プラスチックの品質の安定性やコスト面の課題解決に貢献する新しいビジネスの展開を検討しています。
また「バイオものづくり」は、生物由来の原料から微生物の代謝によって多様な物質をつくる技術です。化石資源に依存することなく、医薬品や食品、工業製品を製造できるため、CO2排出削減につながる技術として期待されています。当社はこの領域でもハイパースペクトルイメージングをはじめ多種多様なセンシング技術とAIを組み合わせて、発酵などの複雑な現象をリアルタイムに計測する技術を開発しています。今後、さまざまな業界のパートナーとの協業により、この独自技術の社会実装を加速化させていく計画です。
※1カーボンマイナス:自社の責任範囲である製品ライフサイクルCO2排出量の削減にとどまらず、責任範囲外(顧客や調達先)のCO2排出量削減に貢献し、それが責任範囲の排出量を上回る状態を生み出すこと
※2地球資源:原油や鉱物資源などの新たな採掘をともなう資源
本音で語り合うことで、社員との信頼関係を築く
当社が中期経営計画を達成し、中長期的な成長を果たしていくには、人的資本のさらなる強化・拡充が不可欠です。そこで当社では、中期経営計画のKPIの一つに「従業員エンゲージメントの向上」を設定し、5つのマテリアリティにも「働きがい向上および企業活性化」を掲げ、人財戦略を推進しています。
エンゲージメントを高めるためには、社内のコミュニケーションを活性化し、会社のビジョンや方向性、価値観などを共有することが重要です。私自身も社長就任以来、従業員とのコミュニケーションに力を注いできました。就任初年度は日本国内を中心に、2023年度は海外拠点にも出向いて、各地でタウンホールミーティングを実施しました。また、社内決算説明会「CEO LIVE!」でも社員からの意見にその場で回答しています。こうした社員との対話から得た気づきを経営にも活かそうとしており、例えば「組織の困りごとに対し、DX人財をマッチングさせて解決する場の設定」や「リスキリングを中心に人財育成のプログラムを強化」などを具体的に実行していきます。
当社では、中期経営計画の各戦略やサステナビリティ課題への取り組みを、結果にこだわりながら一つひとつ着実に実行することで、成長軌道への回帰を果たすとともに中長期的な企業価値向上を目指します。
ステークホルダーの皆様にはこれからも変わらぬご支援を賜りますようお願い申し上げます。