指名・監査・報酬委員長メッセージ
プロフィール
化学・繊維から電子材料・医薬品・住宅へと多角化した旭化成株式会社において、M&A を活用して事業を育成するなど、総合化学メーカーの経営に長年にわたり携わり、企業経営者として豊富な経験と幅広い識見を有する。2018年6月に当社の社外取締役に就任。
主要3テーマへの取り組み
指名委員会の主要な活動テーマは、後述する1から3のとおりです。当委員会を構成する社外取締役4名と社内取締役1名(取締役会議長)の計5名が各々の見識・キャリアを活かしながら、これらのテーマについて活発かつ真剣に議論、意見交換などをしています。
1.取締役会構成の在り方のレビュー
毎年、指名委員会は、取締役会の監督機能のさらなる実効性向上を目的に、構成比率(社外・社内、執行・非執行)や多様性などの観点から、取締役会の構成の在り方について議論を行います。その結果を踏まえ、次年度の取締役候補者数(取締役会全体、社外・社内、執行・非執行など)を確認するとともに、在任年数または年齢の基準により退任する取締役の人数をもとに、社外および社内の取締役それぞれの新任候補者数を確定します。
2.株主総会に提出する取締役候補者の決定
上記1の結果に沿って、指名委員会は取締役候補者選定に関する審議、決定を行います。社外取締役の場合、当社経営課題の適切な監督を前提に、再任候補者との組み合わせを考慮したうえで、新任候補者に求める要件(キャリア・スキル)を議論し、決定します。その要件に照らして指名委員などにより推薦された候補者群をリスト化し、その中から絞り込みと順位づけを行います。順位に従い、指名委員会委員長の私と取締役会議長の松﨑さんが訪問し、社外取締役就任を打診します。2021年6月就任の市川晃氏は、企業トップとしての豊富な経営経験とESG/SDGsに関する幅広い知見を保有していることから、当社にとって有益な監督・助言を得ることが期待できると判断し候補者として選定しました。
他方、社内取締役については、まず、執行役社長が取締役会議長に対して、次年度の執行体制構想を伝えます。そのうえで、取締役選任基準、役割、必要な能力や経験などに照らして非執行取締役候補者および執行兼務取締役候補者を取締役会議長と代表執行役社長で議論し、指名委員会に共同提案します。
上記の手続きなどを経て、当委員会は株主総会に提出する取締役候補者を決定します。
3.執行役社長の後継者計画(育成・選定)に対する監督
後継者計画のプロセスおよびスケジュールを立案するとともに、その計画を実行するのは現執行役社長であり、次期執行役社長の決定権限を有するのは取締役会です。一方、指名委員会は次期執行役社長の選任プロセスに対する監督責任を負います。
具体的には、資格要件の明確化、後継候補者(群)の選定、タフミッション付与を含む育成計画の策定・実践、育成状況の確認・評価などについて、半年に1回の頻度で現執行役社長から報告を受け、これに対して指名委員会として監督、助言を行います。
現執行役社長は指名委員会での意見や指摘などを踏まえ、後継者計画のPDCAサイクルを回すのですが、これはかなり定着しており、次世代・次々世代の人財発掘や育成にも活用されています。また、社外取締役に対して、後継者候補の言動などを現認し、その人物像を把握する機会(取締役会、執行役によるフォーラムなど)が適切に設定されていると感じます。
この主要3テーマに取り組むにあたり、私は自らの経営経験に基づき、トップに求められる要件や育成のポイントなどについて意見やアドバイスをしています。
今後の変化に向けて
コーポレートガバナンスに対する社会のニーズ、あるいは企業の主要課題は大きく変化しつつあります。また、当社は二つの転換(オフィス事業の高付加価値化、オフィス事業に代わる柱となる事業の構築)を進めています。
このような環境変化のもと、今後、取締役および執行役に求められる要件が従来とは異なる可能性は十分にあります。主要3テーマの考え方や進め方を見直すことが必要になることを常に意識しながら、指名委員会が適切に機能するよう運営をしてまいります。
プロフィール
新日本製鐵株式会社および新日鐵住金株式会社(現・日本製鉄株式会社)において、法務、内部統制・監査を中心に、総務、人事労政、環境、ITを含む主要な本社機能を所管し、製造業の経営に長年にわたって携わり、企業経営者としての豊富な経験と幅広い識見を有する。2020年6月に当社の社外取締役に就任。
「DX2022」の戦略の推進状況を監査
監査委員会では、DX2022で掲げる基本方針「DXにより高収益ビジネスへと飛躍」「真の社会課題解決企業へ転換」のもと、執行部門が組織的かつ計画的に戦略を推進しているかどうかを念頭に監査を実施しています。
まず、画像IoT技術を活かして進めている「ソリューションビジネスへの業容転換」については、執行部門によるその推進に向けた取り組みが確実かつスピーディーに図られているかを注視するとともに、業容転換に不可欠な画像IoT人財の獲得・育成に向けた取り組みの有効性についても検証しています。次に、業容転換とあわせて進めている「事業ポートフォリオ転換」については、リスク管理や執行部門の意思決定の合理性の観点などから点検しています。
さらに、社会課題解決への貢献の軸としている「5つのマテリアリティ」については、マテリアリティごとに設定している各施策の実施状況を確認し、中長期的な企業価値の向上に資する取り組みとなっているかをフォローしています。加えて、私個人としては、各種政府委員会・研究会などに参加し、会社法制、コーポレートガバナンスやOECDでの国際投資と責任ある企業行動などに関する制度やルールづくりに携わっている経験も踏まえ、制度変更を見据えた対応やESG/SDGsを巡るグローバルな状況などについてのタイムリーな示唆の提供に努めています。
多様なテーマについて議論し、監査を実施
2020年度の重点監査テーマは、「新型コロナウイルスの影響、減損・事業継続リスクなど経営計画の推進上想定されるリスクへの対応状況」「主要事業であるデジタルワークプレイスと新規事業のプレシジョンメディシンの管理体制と業務の有効性」「DX事業における情報セキュリティー管理体制構築と運用状況」「グローバル品質体制の運用状況と有効性」などでした。これらのテーマに関して、社長をはじめとした執行役などとの会合、会計監査人との会合、監査活動のモニタリングなどを通じて実態を確認し、監査委員会で議論してきました。
国内外のグループ会社への監査に注力
当社は、この10年間で数十社のM&Aを実施してきたことから、グループ会社の監査にも注力しています。そのなかにあって、当社グループでは、個社ごとに内部統制が適切に機能している「自律型内部統制」を目指しており、監査においても個社ごとにリスクマネジメントが十分に実践されているのかを注視しています。
また、重要なグループ子会社に設けられているKPIをフォローしつつ、刻々と変化する市場環境への対応状況を点検し、買収企業については、会計監査人の協力のもと、のれんの評価について都度確認をしています。
さらに、海外グループ子会社については、執行部門による管理体制の整備・運用状況や、数字の良し悪しにかかわらず子会社経営が適切に掌握されているかの確認などにも力を入れています。
監査の質向上に努め、企業価値の向上に寄与
VUCAの時代といわれている今、これまで以上に柔軟かつ有効な監査が求められています。将来の予測が困難ななかにあって、私が監査委員長として大事にしたいのは、「コロナ禍の制約があるなかでも、現場、現物に立脚する」「ビジョンや中期経営計画などのマクロな方向性を見失うことなく細部も見る目を持つ」ということです。その上で、グローバル企業を取り巻く森羅万象のなかに、当社の事業への重要な影響を見出す努力を怠らず、リスクアプローチに基づく監査を着実に実施していきます。
今後も、取締役会、指名委員会、報酬委員会、内部監査部門、会計監査人などとの効果的な連携を通じて日々監査の質向上に努めることで、株主の負託に応え、中長期的な企業価値の向上に貢献していきたいと考えています。
プロフィール
コーン・フェリー・インターナショナル株式会社の米国本社取締役、同社日本法人の社長、会長、G&Sグローバル・アドバイザーズ株式会社の代表取締役社長を歴任。元経済同友会副代表幹事。経営者として豊富な経験、人財マネジメントに関する豊富な経験・知見に加え、コーポレートガバナンスに関する幅広い識見を有する。2019年6月に当社の社外取締役に就任。
報酬委員会の現在の姿
2020年度からの中期経営計画「DX2022」の3カ年開始にあたり、報酬決定方針を改定し、これにともない役員報酬体系の一部を見直しました。加えて、報酬委員会としては、当社の発展を担う優秀な人財の獲得ならびにリテンションに向けて、市場価値を考慮した役員報酬体系に関する検討を2020年度において開始しました。
これは、現在、当社が進めているグローバルな事業ポートフォリオ転換とそれにともなう業容転換後の当社役員に相応しい報酬体系を検討するもので、今後も継続して議論していきます。同時に、役員株式保有ガイドラインの検討および役員報酬のグローバル化に向けた準備も行っています。
こうしたさまざまな検討を進めるなかで、私は、これまで人財コンサルティングに携わってきた経験をもとに、グローバルな人財の報酬体系・インセンティブなどの市場価値を視野に入れた競争力に加え、透明性、公正性を兼ね備えた役員報酬体系を構築できるように提言を行っているつもりです。
報酬決定方針および役員報酬体系の変更ポイント
報酬決定方針の改定、および役員報酬体系の一部見直しのポイントは3点あります。
一つ目は、執行役に対する「業績連動報酬」の評価指標の見直しです。「年度業績連動金銭報酬」の評価指標は「営業利益額」「営業利益率」「ROA」から、「営業利益額」「営業利益率」「営業キャッシュ・フロー」「KMCC-ROIC※」としました。また、「中期株式報酬(業績連動型)」の評価指標は「営業利益額」「ROE」から「営業利益額」「営業キャッシュ・フロー」「ROIC」に変更しました。「営業キャッシュ・フロー」については、事業ポートフォリオ転換のための戦略投資や配当の原資を確保すること、「KMCC-ROIC」「ROIC」については、投下資本効率を向上させることを目的として設定しました。これらは「DX2022」の経営目標とも連動させています。
二つ目は、執行役に対する「業績連動報酬」の支給率の見直しです。「年度業績連動金銭報酬」と「中期株式報酬(業績連動型)」は目標達成度に応じた支給率を0~200%としました。従来の上限150%を200%に引き上げたのですが、これは単なる上限の引き上げではなく達成率と支給率の関係にメリハリを付けたものです。各執行役に対して業績目標への必達意識をさらに高めてもらいたいという意図によるものです。
そして三つ目が、執行役および非執行の社内取締役に対する「長期株式報酬」の導入です。長期株式報酬は役員退任後、役位または役割、在任年数に基づき当社株式を交付するもので、長期的な株主価値向上への貢献意欲を高めることを目的としています。
これらの改定および見直しにより、当社の持続的成長および中長期的な企業価値向上に向け、当社執行役がこの3カ年において「DX2022」の戦略を着実に実行し、計画を完遂することを支援したいと考えています。
※ KMCC-ROIC:当該年度業績連動金銭報酬を算定するためのROICであり、各事業部門による個別管理、改善が可能な資産を投下資本とする。
競争力のある役員報酬体系の構築に向けて
「DX2022」のもとで事業ポートフォリオ転換が進むにつれて、従来とは異なる市場での競合が増加することから、新領域での人財確保も重要になります。その段階を迎えた際は、当社役員報酬体系(構成、水準)の状況あるいは位置づけを確認するためのベンチマーク企業の再検討を迅速に行う必要があります。加えて、今後は経営陣の多国籍化が進むものと想定され、グローバル市場における競争力ある報酬体系についての検討が早急に必要になると思われます。
そうした変革期に備える意味においても、常にグローバルな人財市場の動向を意識し、当社の立ち位置を確認しながら、その時々において最適と考えられる役員報酬体系の検討および見直しを進めていきます。