CEOメッセージ
過去から決別し、
「事業の選択と集中」を進め
再び成長軌道に乗せていきます。
取締役 代表執行役社長 兼 CEO
大幸 利充
これまでの振り返り将来にリスクを先送りしないため
減損損失を計上
中期経営計画「DX2022」の最終年度となる2022年度のグループ連結売上高は、1兆1,303億円(前年度比24%増)と、コニカミノルタ経営統合以降の最高水準となりました。一方で、事業の稼ぐ力を示す事業貢献利益※は297億円と着実に業績が回復していますが、1,166億円の減損損失を計上したことから、営業損失は951億円、親会社の所有者に帰属する当期純損失は1,031億円と、非常に厳しい結果となりました。
2022年度の決算にあたり、過去に買収などで獲得してきた技術資産やのれん・無形資産、固定資産などについてIFRS(国際会計基準)に基づく減損テストを実施しました。その結果、プレシジョンメディシンをはじめとする複数の事業領域において、当初想定した期間内での投資回収が困難と判断したため、将来にリスクを先送りしないためにも、これらを減損損失として会計処理することとしました。
今回の業績と今後の事業への投資や経営環境の推移を総合的に勘案した結果、2022年度の期末配当は無配とし、年間配当は中間期に実施した1株当たり10円のみとさせていただきました。株主の皆様には多大なるご心配、ご迷惑をおかけしますことを深くお詫びいたします。なお、今回の期末配当を無配としたことに鑑み、会社法上の執行役については、役員報酬を一部自主返上することにいたしました。
※ 事業貢献利益:売上高から売上原価、販管費及び一般管理費を差し引いた利益。当社独自の利益指標
目標未達に終わるも、
今後につながる成果も見えてきた3年間
2020年度から開始した中期経営計画「DX2022」の3カ年を通して、当社グループは収益性の改善と財務健全性の向上を目指してきました。しかしながら、同計画で掲げた財務目標(営業利益・営業利益率・自己資本比率・Net Debt/EBITDA)については最終的にどの項目も達成することができませんでした。特に「戦略的新規事業」と位置づけたプレシジョンメディシン、DW-DX、画像IoTソリューションの3ユニットが、赤字幅を拡大させたことは今後に大きな課題を残したと認識しています。
その一方で、安定収益事業と位置づけていたオフィス事業については、コロナ禍の長期化や世界的半導体不足、さらにコニカミノルタサプライズ辰野工場における爆発事故によるトナー供給力の低下などの影響から、苦戦が続いていましたが、生産能力の増強や構造改革の実施による固定費の上昇抑制にも努めた結果、2022年度の収益は大きく改善しました。また、オフィス事業に続く柱として育成に注力したセンシング、IJ(インクジェット)コンポーネント、プロダクションプリント、メディカルイメージング(ヘルスケア)の各事業については、この3年間を通してほぼ目標通りの利益成長を実現できました。
このように「DX2022」の期間は個々の事業単位で見れば、今後につながる成果もあった3年間だったと捉えています。
2023年度を初年度とする新中期経営計画では、これらの成果を方針策定の大きな原動力・支えとして、さらなる成長につなげていきます。
信頼と自信の回復に努めた1年
私は、社長に就任以降、ステークホルダーの皆様からの信頼回復と同時に、従業員の自信の回復を図るため、2022年度は黒字化を最大の目標としてきました。ここ数年、当社は、期初に高い目標を掲げるものの期末には目標が未達に終わることを繰り返してきました。2022年度の業績目標を、従来のように「ベストな条件が揃わないと成立しない計画」ではなく「ベストな条件が揃わずとも顕在化したリスクを他で吸収しながら、全体として頑張れば手の届く達成可能な計画」にしたのは、その達成を通して勝ち癖を思い出してもらいたかったからです。2019年度から続いた赤字決算を黒字に戻すことで、従業員の自信も取り戻したいと考えていました。
そうした考えを伝えるために、私が社長就任以来、最も力を入れてきたことの1つは現場との対話です。私は「真実は現場にしかない」と考えており、この1年間は国内外の拠点を訪れ、のべ約5,000名の従業員に対面して自らの考えを伝えるとともに、一人ひとりの声に耳を傾けてきました。
それだけに、2022年度で最終的に黒字化を実現できなかったことが悔しくてなりません。一方で、当社グループの稼ぐ力は着実に回復しているという手応えが私にはあります。
実際、2022年度の事業貢献利益は297億円と、前年度の-122億円から400億円以上も増加しており、営業利益についても、減損損失分を除けば215億円と、期初計画の150億円を上回る成果を残せています。
また、この1年間、国内外のさまざまな現場を回ったなかで、目立たずとも着実に利益を創出している事業がグループにいくつかあることを改めて認識しました。また、これまで気づかなかった新しい技術や優れた人財も多く見出せました。現場への訪問の体験を活かし、事業の位置づけを改めたこともありましたし、事業の成果を他の事業に横展開したケースも少なくありません。これらのことは、黒字転換こそなりませんでしたが、2023年度に向かうにあたって、私たちの大きな自信となっています。
これからの展望「事業の選択と集中」を柱とする
新中期経営計画を策定
2023年度より、当社は新たな中期経営計画をスタートさせました。まずは足元の赤字を脱却し、バランスシートの改善とキャッシュ創出力の強化に注力します。同時に「事業の選択と集中」を着実に進め、事業構成を変革することで、2025年度以降に向けて成長基盤を確立していきます。
事業の選択と集中にあたって、全事業を「強化事業」「収益堅守事業」「非重点事業」「方向転換事業」の4つに再区分しています。これまでは各事業を4象限のマトリクスで分類し、それぞれを総花的に伸ばす方針でしたが、今回の事業区分では個々の事業への期待・役割と選択・集中の判断基準をより明確化しました。
最大のポイントは、前中期経営計画で「戦略的新規事業」に位置づけたものの成長戦略が計画通りに進んでいない事業を、「非重点事業」あるいは「方向転換事業」に区分し直したことです。「非重点事業」と位置づけたプレシジョンメディシンは、社会的価値が大きく、潜在的な成長力もある領域ですが、当社の成長戦略との適合性や追加投資の必要性などを考え合わせた結果、米国株式市場への上場に加え、他社への事業譲渡も含めた第三者資本の活用を検討しています。また、マーケティングサービス事業内の国内子会社は、第三者間で合弁契約を締結し2023年4月に非連結化を決めています。
「方向転換事業」としたDW-DXのIT管理サービスと業務効率化サービスのうち、オフィス事業とのシナジーが限定的、かつ開発リソースが限られているIT管理サービスについて、ベストオーナー視点も選択肢として地域ごとに見直しの可能性について検討を進めていきます。画像IoTソリューションについては、今後は画像解析ソリューションの注力領域を欧州、米国のアウトドアおよびサーマル活用領域に絞り込み、収益性改善に向けた取り組みを加速させます。
新中期経営計画における各事業の位置づけ
※1 インダストリー強化領域:センシング + 機能材料 + IJコンポーネント + 光学コンポーネント(産業用途)
※2 プロフェッショナルプリント強化領域:プロダクションプリント + 産業印刷
非重点事業・方向転換事業のマイルストーン
成長ドライバーとなる「強化事業」に
経営資源を重点配分
「強化事業」に位置づけたインダストリー事業、プロフェッショナルプリント事業、メディカルイメージング事業については、グループの成長ドライバーと位置づけ、前中期経営計画期間に積み上げてきた強みをより強化し、売上・利益のさらなる成長を図るべく経営資源を重点的に配分していきます。特に収益性の高いインダストリー事業については、センシング、機能材料、IJコンポーネント、光学コンポーネントの各強化領域での事業拡大に加えて、各領域の技術を横断的に掛け合わせる形での事業開発を推進していきます。ディスプレイやモビリティ、半導体製造といった成長分野において、それぞれのお客様との関係や技術資産を事業全体で最大限に活用することで、お客様により密接したビジネスを創出していけると考えており、すでにそのための専門組織を2023年4月に立ち上げて、領域横断的な活動を開始しています。
プロフェッショナルプリント事業は、世界的な熟練労働者の減少や環境意識の高まりなどを背景に、商業・産業印刷ともにデジタル印刷市場が着実に拡大しています。この好環境のなかで印刷会社のみならず、印刷物の発注元(ブランドオーナー)、物流会社など印刷のサプライチェーン全体の現場と幅広く接点を持つことが当社の強みであり、これを活かしてお客様のデジタル化を推進し、自動化や省力化、リモート化などの価値の提供を推進していきます。
メディカルイメージング事業についても、当社の事業機会が今後さらに広がっていくと予想されます。X線フィルムの時代から培ってきたブランド力と顧客基盤をベースに、高付加価値イメージングとITソリューションを中心に成長を目指していきます。
一方、「収益堅守事業」のオフィス事業については、当社がもともと想定し、徐々に進みつつあったプリントレスの流れが、コロナ禍で加速しました。コロナ禍を経てリモートワークとオフィスでのハイブリッドな働き方が浸透したことで今後どのような影響を受けるかを見極めていく必要があります。こうした事業環境のなかで、独自の課金モデルの導入拡大、販売・サービスオペレーションの改革、モノづくりコストダウンなどの施策を実施し、プリント量が低下しても一定の利益・キャッシュを稼げるようにビジネスモデルの再構築を進めています。
企業価値の最大化を実現すべく
ROEを最重要視
新中期経営計画は、「等身大の経営」の考えのもと、リスクと機会のバランスを織り込んだ達成可能な計画としました。
財務目標としては、2025年度に全社で売上高1兆2,000億円規模、事業貢献利益率5%以上、ROE 5%以上を達成することを掲げています。
売上規模については現状から大きく増加させていない計画ですが、売上の構成比を大きく変えていきます。今後オフィス事業の売上は漸減を予測していますが、利益率の高い「強化事業」を拡大していきます。2025年度には「強化事業」の売上高を5,000億円にまで引き上げる計画です。これにより事業貢献利益では「強化事業」の構成比を約75%にまで高め、その結果として全社の収益性も高めていきます。
企業価値の最大化という観点から、財務目標のなかではROEを最重要視しています。この数年間は親会社の所有者に帰属する当期純利益がマイナスの状況であったため、まずは2023年度を黒字化することが最優先課題となりますが、2025年度目標に掲げたROE5%以上は、最低限のラインであると認識しています。可能な限り早期にこれを達成して、遅くとも次期中期経営計画の早い段階でROE8%をクリアできる企業にしていきたいと考えています。
また、ROEを向上させていくには、総資産回転率1.0回転、財務レバレッジ2.0倍を目指すなど、売上や利益に加えて財務健全性の向上に努めていく必要があると考えています。この実効性を高めていくためにも、2023年度からは役員の中期株式報酬(業績連動型)の評価指標を見直し、ROEを80%のウェイトで組み込むことにしました。
新中期経営計画の今後の展開においては、初年度の業績を非常に重視しています。2023年度の営業利益目標は180億円と設定していますが、これは多少の環境変化があっても必ず達成すべき最低限のラインという位置づけであり、この水準をどこまで超えられるかが重要です。まずは前年度に叶わなかった黒字化を必ずや達成し、グループ全体に自信を取り戻した上で、新たな成長軌道を目指していこうと考えています。また、キャッシュを稼ぐ力をつけて、配当を含む株主還元策を強化したいと思います。
売上高
ROE
事業貢献利益
サステナビリティを経営の中核に
当社グループは2003年の経営統合以来、サステナビリティ(持続可能性)を経営の中核に位置づけてきました。
2020年には10年後(2030年)にあるべき社会の未来像を想定し、そこからのバックキャスティングによって「5つのマテリアリティ(重要課題)」を特定しました。厳しい事業環境下にあって、足元では業績の回復が急務ではありますが、この「5つのマテリアリティ」を軸として、事業活動を通じて社会課題の解決に貢献することで中長期的な企業価値向上を目指していく、という経営方針に変わりはありません。
2022年度は、マテリアリティの一つである「気候変動への対応」について、新たな環境目標を設定しました。当社は2017年度に他社に先駆け「カーボンマイナス」という大きな目標を掲げましたが、この達成期限を従来の2030年度から2025年度に前倒ししました。カーボンマイナスとは、スコープ1、2、3での自社CO2排出量以上に、当社の事業を通じてお客様や社会のCO2排出量削減に貢献し、それによってトータルのCO2排出量をマイナスにするという目標です。
オフィス事業やプロフェッショナルプリント事業など、お客様のCO2排出量削減に寄与する事業の環境価値をこれまで以上にしっかり訴求することで、カーボンマイナスの達成と同時に収益の拡大を図っていきます。加えて、スコープ1、2、3のCO2排出量を「2050年度にネットゼロ」にする目標も設定し、自社製品ライフサイクルにおけるCO2排出削減も加速していきます。さらに「有限な資源の有効活用」についても、自社製品における地球資源使用量を「2050年までに2019年度比で90%削減」するという新たな目標を設定し、使用量低減に努めていきます。
また、企業の持続的な成長にとって最重要ともいえる人的資本についても、さらなる強化・充実に注力していきます。経営陣がどれほど優れた戦略を立てようとも、実際にそれを実行して成果にしていくのは現場の従業員であり、従業員が自分の仕事に情熱とプライドをもてないようでは企業も活性化していけません。従業員の声を吸い上げ、組織力の進化につなげていくために、グローバル・エンプロイー・サーベイを実施し、従業員エンゲージメントスコアを2025年度に業界平均の 7.7に、2030年には上位25%に到達できるよう取り組んでいきます。
気候変動への対応や人的資本の強化・充実を、これまで以上に経営課題として深化させていくために、2023年度からはCO2排出量削減率と従業員エンゲージメントスコアを、役員の中期株式報酬(業績連動型)の評価指標としました。これによってROEなどの財務目標に対する意識とともに、非財務資本の強化に対する役員層の意識についても強化を図り、さらなる企業価値の向上につなげていきます。
新たな中期経営計画を着実に実行し、
再び成長軌道へ
社長就任以降、私が常に心掛けてきたのは、未来を切り拓くための前向きな議論を行うことと同時に、過去の経緯にとらわれず、事実に基づいて、自社の将来につながるか否かを冷静に判断する強い意志を持つことでした。そのような「過去との決別」ともいえる姿勢を、社内の執行陣に対しても要請するとともに、高いレジリエンス力をもって環境変化にしなやかに対応できる組織づくりに注力してきました。
一方で取締役会に対しては、より率直に、双方向で議論ができる場にすべく環境整備に努めてきました。毎月の定例会議だけでなく懇談会という形で非公式にオープンに語り合える時間を設けたのもこの一環です。これらによって、2022年度の決算における減損損失計上の決定はもとより、新中期経営計画で示した経営方針の転換についても、検討初期の段階から社外取締役を含む取締役会メンバーと深い議論を重ね、多くの有益な示唆を受けることができました。
新中期経営計画の初年度となる2023年は、当社の創業から150年、経営統合から20年という節目の年にあたります。私はこれをコニカミノルタの「新たな始まり」という意味でも、大きな節目にしたいと思っています。過去の反省と学びを経営に最大限に活かし、再び成長軌道に乗せていくために、新たな中期経営計画の着実な実行に全力を注いでいく覚悟です。
ステークホルダーの皆様には、引き続き当社グループへの温かいご理解、ご支援を賜りますよう何卒よろしくお願い申し上げます。