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ミニチュアコレクションはどう生まれたのか?
2023年10月にケンエレファントから発売された
「コニカミノルタ ミニチュアコレクション」は、
社内外で大きな反響を生みました。
その発想の原点や製品化までの過程、気づきを
新入社員が聞いてきました。
参加した方々
入谷悠
1998年入社
デザイン戦略部
デザイン開発グループ グループリーダー
松波俊
2015年キャリア入社
ブランドエクスペリエンス部
デジタルマーケティング支援グループ マネージャー
高原千尋
2023年入社
デザイン戦略部
デザイン開発グループ
宮坂朔太郎
2023年入社
デザイン戦略部
デザイン開発グループ
目次
●撮りっきりコニカは「手に取って欲しくなる、かわいいもの」
●未来を語るには「歴史を紐解きながら原点を知る」必要がある
●ピッカリコニカ、ミノルタα-7000が選ばれた理由
●こだわりの仕掛けが生み出す、世代を超えたコミュニケーション
●このプロジェクトに込めた想い
●コミュニケーションを生み出す取り組み
1:ミニチュアコレクション誕生の背景
●きっかけは、日常での気づきとコミュニケーション
宮坂さん:
僕たち新入社員は、ミニチュアコレクション(カプセルトイ)を見て「こんな面白いものができたんだ」と驚きました。これを150周年記念として企画したきっかけを教えてください。
松波さん:
もともとは150周年企画として考えていたわけではなかったんです。僕の所属している組織は23年度からデザインセンターに合流したので、交流を深めるためにメンバーのみなさんと雑談会を開催しているんですけど、そこで入谷さんとカプセルトイの話で盛り上がったのが最初です。
入谷さん:
プロダクトデザイナーなら、みんな一度はカプセルトイをやりたいはずなんですよ。ちょうど製品の3DデータをARやVRなど何かに活用できないかという雑談をしていて、タイミングよくカプセルトイの話が出ました。
松波さん:
そうでしたね。僕はその日たまたま、会社員しか通らないような浜松町のコンコースでカプセルトイの特設スペースを見かけて。そこに女性がどんどん引き寄せられている状況に驚いたんです。カプセルトイのパワーはもちろん、設置場所が斬新だなって。それを仕掛けていたのが、今回のミニチュアフィギュアを開発したケンエレファントさんでした。
高原さん:
それがどうして150周年企画になったんですか?
松波さん:
150周年を迎えるにあたってお客様への「感謝」というコンセプトを決めたんですけど、そのときは具体的な企画は何もなかったんです。ブランドエクスペリエンス部としては150周年をうまく活用したいと考えていたので、アイデアは出していましたけど。
入谷さん:
雑談から生まれたアイデアが、150周年企画とくっついた感じですよね。
松波さん:
そこからすぐにケンエレファントさんに電話して。
宮坂さん:
行動が早いですね!
●コニカミノルタを知るきっかけを作りたい
松波さん:
最初は先方も「なんか突然やってきたけどなんだろう?」と思われたみたいですけど、そもそもコニカミノルタってあまりご存じないですよねって話をさせていただいて。調査をすると、上の世代の方はカメラブランドだと思われているけど、若い方はプラネタリウムという認知がほとんどだったんですね。
高原さん:
私も学生の頃はプラネタリウムしか知らなかったです。
宮坂さん:
僕もそうですね。入社することが決まったとき、祖父が「昔使ってたよ」とカメラを見せてくれて。歴史のある会社なんだなと思ったんです。
松波さん:
そうですよね。現在はBtoBの会社なので仕方ないですが、コニカミノルタを知るきっかけをどうやって作るかがここ数年の課題だったんです。
2:なぜフィルムカメラだったのか
●撮りっきりコニカは「手に取って欲しくなる、かわいいもの 」
松波さん:
最初は、あえて誰もやらないだろう複合機とか、ちょっと奇をてらったようなものも面白いと思っていたんですが、ケンエレファントさんから「手に取って、欲しくなるかわいいもの」という点は絶対に外せないという話でした。ちょうどケンエレファントさんの担当者の方が愛用されていたこともあって、撮りっきりコニカが真っ先に候補になりました。
入谷さん:
昭和レトロ、平成ノスタルジーが人気の中で、先方が考えるコアターゲットはそこを新鮮に感じる若者と、それを懐かしむ40代以降の世代だったんです。
松波さん:
昔の話になると、どうしてもカメラ好き目線で名機の話になるじゃないですか。でも、僕はまさに40代なんですけど、覚えていたのは撮りっきりコニカなんです。西田ひかるさんのCMをリアルタイムで見たし、中学の修学旅行に持っていった思い出もあります。往年の名機も素晴らしいけど、いたって普通の人が手にすることで思い出が蘇るような体験には、撮りっきりコニカはぴったりだなと思いました。
宮坂さん:
僕は修学旅行でデジタルカメラ持っていこうと思ったら禁止で、先生に撮ってもらっていました。
高原さん:
私もデジタルカメラ禁止でした。でも思い出が欲しくて修学旅行先ではプリクラを探して撮っていましたね。
松波さん:
3年くらい前、レンズ付きフィルムが再ブームになったときはどうでした?
宮坂さん:
やりました。現像するまでわからない楽しみがあって、うまく撮れなかったですけど思い出に残っています。
高原さん:
フィルムじゃないと出ない、特別な感じがありますよね。
松波さん:
そう、そこが重要で。レンズ付きフィルムがまたブームになったことで、フィルムカメラ人気が復活したんですよね。若い女性がYouTubeでピッカリコニカの使い方を紹介したり、少し話題になっていて。その流れをケンエレファントさんも把握していて、商品化の後押しになったことは間違いないんです。そうした背景もあったので、フィルムカメラがカプセルトイになったら、若い方たちにもコニカミノルタに興味を持ってもらえそうだし、150周年にぴったりな企画だと思ったんですよ。
●未来を語るには「歴史を紐解きながら原点を知る」必要がある
高原さん:
そこからすぐにカプセルトイを作ることになったんですか?
松波さん:
いえ、カメラ事業はすでに撤退していたので、150周年と言う節目に未来を見据えるタイミングでカメラの話を持ってくるのは良いのか?という議論が出ましたし、取り組みの意味を社内にも社外にも誤解されないよう、スタートまでには結構時間がかかりましたね。
入谷さん:
デザインセンターの戦略部で取り組んでいる未来ビジョン創造プロジェクトで、未来を語るうえでは「歴史を紐解きながら原点を知ることが大事だ」という意識があったので、メンバーが社史室を見学するツアーを企画していたんですよ。じつはこの施設も昔からあったわけではなくて、数年前から原点に対する意識が高まった結果作られたものでした。
松波さん:
すでにそういった取り組みをしている仲間と一緒にやれたのは大きかったですね。ひとりじゃ絶対にできなかった。いろいろな方の協力があって、結果的に社内の皆さんの賛同を得られることができたんです。2020年に長期ビジョンを制定したあとに原点を大切にしようと言う想いは着実に広がって、今回それが結実したような感覚を持っています。
3:プロダクトへの強いこだわり
●ピッカリコニカ、ミノルタα-7000が選ばれた理由
宮坂さん:
どの機種をカプセルトイにしようかは、どうやって決めていったんですか?
入谷さん:
ケンエレファントさんの意向もあって、撮りっきりコニカは決定していました。その後、ミノルタの機種では、個人的に好きな小文字ロゴのハイマチックも推していたんですが、オートフォーカス一眼レフを広めたα-7000は外せないと。
松波さん:
僕は知らなかったんですが、その発売はのちに「αショック」と呼ばれたほどセンセーショナルだったみたいですね。世界初のオートフォーカス内蔵一眼レフα-7000は、国立科学博物館の「重要科学技術史資料(未来技術遺産)」 にも登録されているんです。
入谷さん:
コニカのほうはピッカリコニカ(C35 EF)にするか、ジャスピンコニカ(C35 AF)にするかで議論になりました。最終的には、当時使うのが難しかったフラッシュを内蔵して夜でもきれいで簡単に写真が撮れるようになったピッカリコニカになりました。レトロなデザインだけでなく、ハイレベルな技術を一般の人も気軽に体験できるようにという開発の想いも、コニカミノルタらしさだと思ったんです。
松波さん:
あと、α-7000は一眼レフだったので当時手が届かなかった方もいて、そうした方にも楽しんでもらえるようにしたかった。一方で、ピッカリコニカは普及機として多くの方になじみがあるだけでなく、今も現役でこの機種を使っている方がいます。そのバランスも考えて、3つのモデルに決まりました。
入谷さん:
精巧に作っていただけることは知っていましたけど、どこまで再現できるのかが次の話し合いでした。ピッカリコニカは蓋を開けてフィルムが交換できるようにしたかったし、α-7000はレンズを取れるようにしてほしかった。
松波さん:
普通であれば金型や品質の問題があって、ギミック的なものは気軽には応じられない。でも、ケンエレファントさんが妥協せず、結果的に完璧に再現してくれました。クローズアップで写真を撮ると、もう本物なのかミニチュアなのか見分けがつきません。
●こだわりの仕掛けが生み出す、世代を超えたコミュニケーション
入谷さん:
ピッカリコニカのフィルムは、祖業であるさくらフィルムになっています。撮りっきりコニカは、ハードウェアの質感だけではなく、オプションに工夫を凝らすことで、「当たり」にしたかった。そんな相談をケンエレファントさんに相談したところ、ネガフイルムセットとミニフォトアルバムセットのアイデアを生んでくださったんです。
松波さん:
雑談レベルで「ネガがあったらいいですよね」と話しましたけど、ここまで精巧にできるとは思わなくて。ネガをつけるアイデアは、ケンエレファントさんが強い想いで実現してくださって。ネガに写ってる写真は、担当の方がミニチュア専用にわざわざ撮りに行ってくれたんです。
高原さん:
このネガに写っているのが、その写真なんですか?
松波さん:
そうそう。高原さん、仕組みは知っている? カメラ屋さんに現像に出すと、プリントされた写真と一緒にネガを貰えるんですよ。焼き増しはわかる?
高原さん:
わからないです(笑)。
松波さん:
再注文のことね。そのときにネガを持っていくの。
高原さん:
この茶色いネガが、どうやってカラーになるんですか?
松波さん:
そうなんですよ、不思議ですよね。……といった感じで、社内にこのカプセルトイを置いたら若い人が「なんだかわからないカメラが出ました」、そうしたら優しいおじさんたち(笑)が寄ってきて「それはね、……」っていう雑談が生まれて。総務の方は「ここ十数年こんな光景は見なかった」と喜んでくれたんです。
宮坂さん:
「どれ当たった?」みたいな会話がたくさんありました。
高原さん:
人気だったのですぐに売り切れちゃって「次は何日に補充されるらしいよ」って話も飛び交っていましたよね。
入谷さん:
メールでいろんな感想をいただけて。なかには、撮りっきりコニカ時代を思い出して当時の気持ちに戻れた、励みになったという意見もいただきました。
松波さん:
150周年に向けた想いを仰々しく語っても、伝わりにくかったと思うんです。でも、カプセルトイは誰もが気軽にエントリーできて触れやすい、それが当初のコンセプトである「感謝」に還元できたのは良かったかなと思うんです。
4:祖業のDNAをどう未来へ活かすか
●このプロジェクトに込めた想い
入谷さん:
このプロジェクトに関わらせてもらって、新しい機能やプロフェッショナル向けの機能を、コニカミノルタが汎用性を高めて一般の方にも使えるようにしてきた歴史は、現在にも受け継がれているなと思いました。昔から「体験価値を高める」ことを頑張ってきた。それはミニチュアコレクションを通じて伝えられそうだなと感じたんです。
松波さん:
複合機では高度なセッティングが必要な紙の検知も自動にできるとか、医療機器なら小さなクリニックでも導入できる超音波診断装置など、本来であれば専門性の高い知識が必要な機能を、誰でも使えるようにしたいという想いは続いていますよね。
宮坂さん:
僕が語るのはおこがましいですけど、UI/UXのデザインをやっていると、つい画面の中と戦いがちなんです。そうではなくて、どういうフローであれば使いやすいか、どう表示されれば見やすいかなどが本当は大事なんですよね。今のお話を聞いて改めて痛感しました。
高原さん:
友人に「BtoBじゃん」って言われたことがあって、企業に売るんだから個人の心が動くのは違うし、エンタメ的な煌びやかさはいらないって。でも、BtoBでもその先にいるのは個人ですよね。いまのカメラの話みたいに、難しいことでも専門の人じゃなくてもいろんな人が楽しんで、役に立つように使える。その技術もすごいし、デザインとして使いやすさを考えることが大事だっていうのは、このカプセルトイであらためて気づけたなぁって思いました。
入谷さん:
このカプセルトイが発売されたことで、コニカミノルタが実現してきた価値がコミュニケーションとして広がり、「体験のデザイン」が実行できたと思います。お二人にはこれから実際の製品デザインをしてもらいますが、ユーザビリティを含めて使う人のことをしっかり考えてデザインする姿勢を受け継いでもらえるといいなと思います。
松波さん:
僕は今回150周年の「感謝」を、まずはファンでいてくれるお客様、次にこんな素晴らしい製品を作ってくれた社員のみなさん、そして周りにいる家族に伝えたかった。だから歴史をテーマにケンエレファントさんとミニチュアの「コニカミノルタ」を実現できたのは、やはり最終的に「想いがカタチになったモノ」を手元に残したいと思ったからでした。
入谷さん:
モノ作りをしている会社ですからね。
松波さん:
会社の人たちのモノに対する想いがカプセルトイになったことで、お客さんや家族友人との話題が生まれて。僕も子どもと一緒にカプセルトイを回しに行ったりおじいちゃんにプレゼントしたりと、モノを通じて生まれるコミュニケーションを達成できたのはよかったなぁ。
入谷さん:
松波さんの行動力がとにかくすごくて。カプセルトイ発売後のコミュニケーションのために西田ひかるさんにコメントをもらいに行ったり、思ったことを実行する力強さを目の当たりにしました。
松波さん:
それもこれも一緒にやってくれる仲間がいたからです。デザインセンターは常に新しい取り組みをチームでやっている。ホワイトボードを使いながら屈託なく話す風土は、僕がこっちにきて良いなと思ったことなんです。
●コミュニケーションを生み出す取り組み
高原さん:
新入社員なのでまだあまり他の部署の方とお話しする機会もないですし、これまでモノ作りでこんなことがあったよ。みたいに詳しくお話を聞けなかったので、今回のお話はとても面白くて楽しかったです。次に仕掛けたいことはありますか?
松波さん:
今回のプロジェクトは楽しいということを大事にしてきました。今の世の中にも会社にも、肩ひじ張らずにシンプルで楽しいことが大切な気がします。真面目さだけでなく、たまには本音が言えるような空気を作りたい。今回はモノという形になりましたけど、基本的にはコミュニケーションを起こしたいので、コニカミノルタが話題になる何かを、また仲間たちと一緒に作りたいですね。それはPR的なことではなくて、みんながノリやすいもの。そこに意味があれば、形は何でもいいと思っています。
高原さん:
私は他のカメラのミニチュアも見てみたいと思いました。
松波さん:
第二弾ですね! 機会があればまたやってみたいです。(終)